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田畑が潤う長雨の候が来たり、そろそろ時節が訪れたと老人と娘は、雲の様子を見ながら愛宕山へ向かった。裾野に着くと、しとしとと降り出していた雨が本降りになり、山頂辺りには沛然と黒雲が沸き立って来た。その黒雲が二人の真上に至ると、「来たれ」と怒号が聞こえた。娘はすかさず老人を包み込む白煙となり、黒雲に向かって立ち上って行った。そこにはかっと口を開いた雷神が待ち受けており、白煙は吸い込まれるように口の中へ進入した。白煙を吸い込んだ雷神は、老人の意思に従うように黒雲を都の大内裏に向かって進めている。
やがて黒雲が、大内裏を覆い尽くし、稲妻の閃光を天空に煌めかせ雷鳴を轟かせている。時には地上にも落雷し、地響きと合わせけたたましい轟音を響かせていた。宮殿内では人々がざわめき、蔀の隙間から不安げに黒雲を見上げる人、奥まった部屋に身を隠す人、右往左往する人々で混迷していた。そこに目もくらむ閃光が走ると、宮殿を揺らすほどの轟音が響き、火炎も立ち上がった。女御や女官の悲鳴が甲高い声で響き、騒然とした惨状が露わになろうとしている。袍に火がついて亡くなる人、顔が焼けただれて亡くなる人、髪が焼けて亡くなる人、腹部が焼けただれて悶乱する人、膝を焼かれて倒れ伏す人など、高位にある人々が悲惨な様相を呈していた。
哭泣の叫びが轟く中で、この惨状を知った王は、直後から不予(病)になってしまった。
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