僕が俺で、俺が僕

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 テスト期間が終わり、部活が再開した。手を怪我している幹雄は、見学しながら自分の演じ方を考える時間があった。体育でしかやったことのないバスケだけれど、怪我を理由にすれば、へまをやっても何とかなりそうに思えた。  一方、ユキオは竹刀を振ったこともないし、防具を着けたこともない。動画で調べたり、家でまねごとをしたりして、部活に参加せざるを得なかった。さんざんな目にあったが、剣道の面白さに目覚めることとなった。  最後の通院が終わった頃には、二人とも家族に慣れ、学校での居場所を見つけていた。演じているのか、自然体なのか、わからなくなってきていた。 「ユキオ、俺らこのままでよくないか? 元に戻るの、面倒くさくなってきたんだけど」 「そうだな。また、入れ替わっていた時のこと、お互いに説明しあわなきゃなんないし」 「親が離婚してなきゃ、俺らは一緒に暮らしてたはずだ。父さんと母さんは俺たちを一人ずつ引き取る時、どっちにするか、子どもを選んでいるんだ。俺らだってもう子どもじゃないんだから、今度はこっちが親を選んだっていい気がする。俺らが交代するんじゃなくて、父さんと母さんが交代するんだ。俺らにだって選択の自由があってもいいって思う」 「高校卒業するまで、このままっていうのも悪くないな、幹雄。その先は……」 「同じ大学に行こう。家を出て、二人で住むんだ」 「楽しそうだね」  とユキオは呑気だ。 「バカな大学はごめんだからな、ユキオ」 「がんばって勉強するよ。二人のためだったら、できると思う。かわいい彼女も僕が引き継ぐから幹雄は心配すんな」 「ずるいぞ」 「彼女じゃないんだろ?」 「ひどいことすんなよ。いや、やっぱり、彼女だけは変われないよ」 「いやだよ、幹雄」 「気に入られたのは、俺じゃないか」 「進行中なのは、僕さ」  ユキオも幹雄も憧れの大学生活を思い描いて、笑った。
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