僕が俺で、俺が僕

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 ウリボウを見失い、ユキオは藪から出た。太陽の位置から、山頂の西側に下っているのがわかった。 「こんにちは。山頂は、もうすぐですか?」  後ろを振り向くと、見知らぬ少年がいた。鬱蒼とした木々のドームの中で、木漏れ日に少年は揺れて見える。帽子を目深に被り、表情は見えないが、誰かと話したい様子だった。 「もうすぐですよ。僕は、南側から登って来たんです。西ルートはきついようでしたから」 「後悔してます。母とは、途中の滝が見えるところで分かれてきました。絶景でした。今頃、母は下山して麓のどこかで、ゆっくりしてると思います」  と言って、少年は滝の写ったスマホをユキオの方に向けた。滝は水量があり、サングラス越しでもうっすらと虹がかかっているのがわかった。  しかし、ユキオの気を引いたのは滝ではなく、写真の端に写っていたこの少年の母親だった。どこかで会った気がするのは、なぜだろう。初めて出会った少年に親近感を感じて、ユキオはこの写真を自分のスマホに送信してもらった。  山頂に向かっていく少年と別れ、しばらくウリボウを探してから戻ると、父は同じ場所で目をつぶっていた。近づくと、ユキオが不在だった時間の長さに気が付く風もなく、 「無事だったか、さあ、降りようか」とあくびをした。
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