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どことも知らぬ闇の中に、微か一筋の風が吹く。ならばこの闇は屋外か。それにしては星の瞬き月の輝き、いずれもまったく見当たらぬ。闇に覆いつくされたその場所に、低く低く、地を這うよりもまだ低く、地底の底のさらに底から滲み出でてきたような声がとぎれとぎれに流れくる。
「久しぶりに我が身を動かしこの江都に来て見れば、すでに多くの者が蠢いておる」
「誰が誰やら、何を目的にしているのやら、分からぬ者も数々多々々」
「信仰を隠れ蓑に、世の転覆を狙うものも紛れておるとか、いないとか」
「あまりに多くの有象無象はこちらの目障り、少々間引く必要があるやもしれぬな」
「秋葉、御嶽に羽黒山。海の真砂ほどの行者がおって、民はそれらをいちいち信仰する」
「さて、今年の春の参勤に黒河の狼が紛れているとの話を聞いた。彼奴に何か目論見はあるのだろうか」
「黒河ならば狼は古浪殿の眷属。そもそも本尊は日輪の巫女でございましょう。ならば我ら二色ではなく、古老殿の御親戚ではござらぬか」
「黒河の巫女こそ有象無象の筆頭。あれが江都に来ているというのなら都合が良い、霊木古樹の根が蔓延る前に早や絶たん」
「霊木とは、これは古浪殿、彼奴らをずいぶんかったもの」
「日輪は我らが祈りの対象、空に有る日輪は一つのみ。二つは要らぬ。どちらかが必ず紛い物だ」
闇の中の声が熱を帯びて、その興奮に身を震わせたのか微か衣擦れの音がした。
そして。闇はまた唐突に、熱も音も失った。
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