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どことも知らぬ闇の中。
その闇の中にあってもなお昏く、凝った二つの影から紡ぎだされる言葉は相手を求めぬ独り言か、それとも会話になっているのだろうか。低く低く、地を這うよりもまだ低く、地底の底のさらに底から滲み出でてきたような声がとぎれとぎれに闇に流れる。
「世の中、いよいよ騒ぎ始めるか」
「大なり小なり国中の動乱、国守たちにすでに抑える術はない」
「人々が陽を陽とも、陰を陰とも思わなくなってどれくらいの年月がたったかのう」
「陰陽区別なく混じり合う世の中は、あともう少しで終わりを告げよう」
「ほんの少しのきっかけで、満ちた水は溢れ出すだろう」
「溢れた水は闇に住まう古きものを洗い流す」
「ならば我ら闇から出でて、流される前に新たな居場所を見つけなければ」
「闇の中はもう飽きた。明るい所で見る景色、さてこの数百年の間、見た覚えがない」
「ここでそなたと逢ったのも何かの縁、ともにこの闇を出ようか二色殿」
「古浪殿が闇の中とは、さて面妖な。夜の水底に住まう我らなればこそ」
「我らが住まう小屋の中には日中の日も差さぬ。昼でも薄明、夜でも薄明。一日のうち変化なく、一年流れても変容なく。飽いた、飽いたぞ」
「それは我らも同じこと」
「さあて、そろそろこの闇を脱ぎ棄てて、白夜を望む外界に出ようぞ」
どことも知らぬ闇の中。
ばさり、と大鳥の羽音を思わせる音を立てて打たれた布は、彼の者たちの袖か、衣か。
残されたのは昏い静寂のみだった。
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