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本屋を出ると、桃野が眉を下げてこちらを見た。
「すまない、俺ばっかり話してた…」
見上げてくる気まずそうな表情が俺の目には可愛く映ってて、ドキリとする。
男も女も、顔が良いってずるいな。
俺は、そんな気持ちを振り払うように笑った。
「桃野が楽しそうだから、俺も楽しかったぞ!」
「…気を遣ってないか。」
「まさか! 俺、嘘は…」
思わず立ち止まって、言おうとした言葉を飲み込んだ。
(何言おうとしてんだよ…)
まさに今、嘘をついているのは誰だ。
「どうした?」
急に足を止めたから、顔を覗き込まれる。
見ないふりをしてきた罪悪感が急激に押し寄せてきた。
真っ直ぐな黒い瞳を見ていられなくて、すぐに目を逸らす。
さっきの言葉はきちんと言い切らなければ。自分は嘘つきだと言っているようなものだ。
(嘘つきだろ。)
口は無意味に開閉するけど、なかなか言葉が出せなかった。
おかしい。
俺は、どうしたんだろう。
「え、いや…その…あの、行列、なんだろうな?」
ようやく声が出せた時、目線を外した先に偶然あった人の列のせいにした。
結局、嘘はつかないとも言えずに適当に誤魔化したのだ。
桃野の視線は素直にその謎の列へと移動した。
「ああ、あれか…男女の二人組が多いみたいだけど…」
適当に言ったからよく見ていなかったが、確かにカップルっぽい人たちが並んでいる。
列の先にはお洒落なロゴの飲食店があるように見えるので、デートで来る人が多い店なのだろうか。
「あれ? 桃野か?」
ふいに後ろから声をかけられた。
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