光安と桃野の場合③

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 本屋を出ると、桃野が眉を下げてこちらを見た。 「すまない、俺ばっかり話してた…」  見上げてくる気まずそうな表情が俺の目には可愛く映ってて、ドキリとする。  男も女も、顔が良いってずるいな。  俺は、そんな気持ちを振り払うように笑った。 「桃野が楽しそうだから、俺も楽しかったぞ!」 「…気を遣ってないか。」 「まさか! 俺、嘘は…」  思わず立ち止まって、言おうとした言葉を飲み込んだ。 (何言おうとしてんだよ…)  まさに今、嘘をついているのは誰だ。 「どうした?」  急に足を止めたから、顔を覗き込まれる。  見ないふりをしてきた罪悪感が急激に押し寄せてきた。  真っ直ぐな黒い瞳を見ていられなくて、すぐに目を逸らす。  さっきの言葉はきちんと言い切らなければ。自分は嘘つきだと言っているようなものだ。 (嘘つきだろ。)  口は無意味に開閉するけど、なかなか言葉が出せなかった。  おかしい。    俺は、どうしたんだろう。   「え、いや…その…あの、行列、なんだろうな?」  ようやく声が出せた時、目線を外した先に偶然あった人の列のせいにした。  結局、嘘はつかないとも言えずに適当に誤魔化したのだ。  桃野の視線は素直にその謎の列へと移動した。 「ああ、あれか…男女の二人組が多いみたいだけど…」  適当に言ったからよく見ていなかったが、確かにカップルっぽい人たちが並んでいる。  列の先にはお洒落なロゴの飲食店があるように見えるので、デートで来る人が多い店なのだろうか。 「あれ? 桃野か?」  ふいに後ろから声をかけられた。
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