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先週から恒例になってしまった桃野との屋上での昼ごはん。
今日は周りに何組かの女子たちが食べていた。
おそらく桃野がここで弁当を食べていることが広まっているんだろう。先週よりも明らかに人数が増えている気がする。
しかも、チラチラと熱い視線も感じる。
(あんまり見ないでくれ…。)
桃野を隠したいような気持ちになる自分が居るのを感じる。
どうしてそう感じるのか分からなくて、モヤモヤしながらいつも通りおにぎりを手に取った。
しかし、その彼女たちよりも俺の方が桃野を見ている自信がある。
すぐ隣で動いている桃野の唇が気になって仕方がない。
先週は本当に、友人と同じように過ごしていたのに。一度意識してしまうともうダメだった。
正直言って、今すぐあの唇に齧り付きたい。
唇だけじゃない。
制服の白いシャツのボタンを外したら、あの白い鎖骨が見えるんだな、とか。もっと外していくとその下は、とか。
全部を見てみたくてたまらない。
食事をしているのを見てるだけなのにこんなに胸がザワザワするなんて。
(完全に変質者なんだけど…!)
変質者というか、発情期の獣だろうか。
恋人ってこんなんだっけ。
なんかもっと、かわいいなって温かい気持ちになるようなものじゃないのか。
ダメだ、恋人がいたことがないから分からない。
誰かに相談しようにも、いつもの3人にこのことを相談するのは躊躇われた。なんか、どうしてそうなった!って総ツッコミを受けて相談どころじゃなくなりそうだ。
他の奴に事情を説明するのもリスキーだ。
万が一、桃野のことがバレたらまた辛い思いをさせるかもしれない。
八方塞がりだった。
俺がずっと見ていたのに気がついたのか、桃野がこちらを覗き込む。
突如、至近距離に入ってきた整った顔が首を傾げた。
「…欲しいのか?」
「えっっっ!!」
自分でもびっくりなほどでかい声で驚いてしまった。
欲しいってナニが?
キスしていいの?
周りにいっぱい人がいるのにどうしたんだ!?
固まっていると、弁当箱をずいっと差し出される。
「どのおかずがいい?」
「……。た、卵…。」
俺の頭がどうしたんだよ!!
そんな訳ないに決まってるだろ!!
大音量を出したせいで、桃野に食べさせてもらってるのを周りの女子に見られてるし。
もう無理だ穴があったら入りたい。
行儀悪くても手で摘ませて貰えばよかった卵焼きくらい。
顔が熱くなってきてしまって俯いた。
出汁と卵の甘みが混ざる絶妙な味が広がって、口の中だけは幸せだった。
「…ありがとな、桃野。…悪い、俺ちょっと宿題やんの忘れてるから先行くわ!」
急に早口で捲し立てる俺を、桃野は唐突な奴だと思っただろう。
俺は残ったおにぎりを口に詰め込むと、噛むのもそこそこに立ち上がった。
「宿題なら…」
「じゃあな!」
その場に長く止まっていると頭が痛くてパンクしそうだった。
桃野の言葉を最後まで聞かず、笑顔だけは忘れずに手を振る。
宿題なんて、ほとんどやったことないのに。
そもそも次の授業の宿題がなんなのかすら知らないのに。
俺は勢いよく階段を駆け降りていった。
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