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「…お前、サクラといつも一緒にいる…」
俺の顔を確認した空は、静かな声で呟いた。
いつも一緒にいるサクラ、とは桜田のことだろうな間違いなく。
罰ゲームの共犯であることが後ろめたい俺は、どんな顔をしていいのか分からなくてとりあえず笑った。
「うん、そうだけど…近くね?」
近くまで歩いてきた空は、立ったまま俺の顔を覗き込んできた。さして興味も無さそうな瞳に俺が映っているのが見える。
桃野もそうなんだけど、イケメンって距離感バグってんのかな?
ああ、でも桃野は。
もっと俺のことを「見てる」って目をしている気がする。視線に温度を感じると言えばいいだろうか。
だからこっちも、フワフワした気持ちになるんだ。
「丁度いい。確認したいことがあった。」
空と視線を合わせているのに桃野のことを思い出してぼんやりしていると、急に顎を掴まれた。
「何…!?」
息が掛かる距離まで近づいて鼻が触れ合うのを感じた瞬間、背筋がゾッとして。俺は空の肩を思いっきり押して引き剥がした。
「い、い、いや、お前! 何すんだよ!」
女遊びが激しいことで有名だったけど、男もいけたのか? だから桜田はOKされたということだろうか。
動揺して立ち上がった俺とは対照的に、全く表情を動かさずこちらを眺めていた。
「…やっぱり、そういう反応になるか。」
「何が。」
俺は顔を引き攣らせる。
少しだけ低いところにある目がフイと逸された。気だるげにポケットに両手がしまわれる。
「お前、男にキスされたらどう思う。」
「男とか女とか関係なく好きじゃないと嫌な気持ちになるけど!?」
反射的に語尾を荒くして答えたが、言ってから(そういやそうだよな)と心の中で1人納得してしまった。
好きじゃないと、キスなんて不快なだけだ。
空はというと、
「そうか。分かった。」
音はしなかったけど、明らかに溜め息をついて背を向けて行ってしまった。
なんでそっちが面倒なやつに絡まれたみたいになってるんだよ!
「…なんだったんだ。」
俺は背中が見えなくなるまで呆然と立ち尽くす。
それが聞きたいだけならわざわざ本当にキスしようとしなくていいと思うんだけど。止めなかったら本当にされてたんだろうか。
よく分からない奴だった。
(…俺、嫌だった、な。)
ベンチにへたり込みながら天を仰ぐ。
もう完全に真っ暗になってしまって、月が見えていた。
実は少しホッとしていた。
心のどこかで、桃野の顔が綺麗だからキスしても大丈夫だったのかなって気持ちがあった。
男とか女とか関係なく、俺は顔が良ければ良いのかな、なんて。
空は廊下を通るだけでクラスの女子がいつもカッコいいってコソコソ言ってるのを見るくらい美形だ。
そんな顔が至近距離にきても全然ドキドキしなかったし、あのままキスしたら良かったとか全く思わない。
好みの問題な気もするけど、それはもう本当に桃野が好きってことだよな。
…キスもしたいと思うし。
「…何回なら告白しても許されるのかな…。」
明日、罰ゲームのネタバラシをして。
幻滅されてフラれたら。
その後、夏休みくらいまでは好きになってもらおうと頑張っても構わないだろうか。
そんなことを考えながら、俺はようやくベンチから重い腰を上げた。
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