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「…また誰かが言ってきたらそいつと付き合う」
「…どゆこと?」
空が言うには。
彼はあまりにもモテすぎていた。相手を選ぶことも断ることすら面倒になるほどに。
そのため、告白されたら必ず付き合うことにしたらしい。
浮気は浮気で面倒なので、必ず前の彼女とは別れるのだという。別れるのは面倒じゃないのかよ。
今までトラブルがなかったのが不思議なくらいの、愛のかけらもないシステムだよな。
俺はモテモテで羨ましいとか以前に「人でなし」の一言のルールを、何でもないことのように説明する空に激昂した。
「はー!? なんだそれ! ふざけんなよ!」
「俺の勝手だろ」
おそらく、こんな反応にも慣れっこなのだろう。ピクリとも表情筋を動かさずにパンを齧っている。
手に持っている焼きそばパンは、派手目のメイクをした女子に
「空、間に合ったから買っといたよ~!」
と、笑顔で投げ渡されていたものだ。
こんな不誠実な男が、何故、顔が良いだけでモテるんだ。
顔が良いからか! そんな馬鹿な!
俺は立ち上がって空の胸ぐらを掴んだ。
「相手の子はそれでいいのかよ!」
「知らん。興味ない。向こうが俺が良いって言ってくるから付き合うだけだ」
氷のような男とはこういうやつのことを言うんだろう。
近づいた顔は、興奮している俺とは正反対の静かな表情と声で淡々と喋る。
告白する女子の気持ちをなんだと思ってるんだろう。好きな人と恋人になるために、勇気を出しているに違いないのに。
俺は勢いよく手を離した。
流石に、体は揺れて椅子がガタリと音を立てる。
「そんなやつは! 願い下げだ! 今俺と付き合ってるってんなら別れる!!」
「断る」
「なんでだよ」
あまりにもあっさり拒否されて、俺は真顔になってしまう。
意味が分からない。
俺じゃ、お前の欲求を発散させられないだろ。
「…お前、うるさいけど面白いからな」
パンの最後の一欠片を口に放り込みながら、なんとも感情の読めないことを言ってくる。
こっちが別れるって言ってんのに!
でも合意がないと別れられない! のか!?
え、付き合ったことないから分かんないぞ?
双方の合意がないと別れられないならこいつが了承しないとずっと恋人なのか?
そんなの嫌だけど!?
「……お前、どのくらいの頻度で告白されるわけ?」
「一週間から二週間ってとこか」
イケメンってすごい。
しかし、そのくらいの期間なら我慢できる。
出来るだけ早く誰かが告白してくれることを期待しよう。
「…あー、誰だよこんなやつに告白しちゃったの…」
「お前だろ。」
ぐうの音も出ない。
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