桜田と空の場合③

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桜田と空の場合③

 その日の夜。  俺は部活で疲れた体を引きずりながら、街灯が薄ぼんやりと照らす道を歩く。  罰ゲーム参加の3人には「まだ正直に話せてない」と伝えてある。  なんとなく、次の告白者が現れるまで付き合うことになってしまったとは言い出せなかった。他の3人もまだ種明かし出来ていないと言っていたから、特に違和感はないんだけど。  しかし皆、なぜ言えてないんだ。もしかして、実は俺みたいに逃げられないような空気になってしまったのだろうか。  他の3人のイケメンたちはそんな性格悪いこと無さそうなんだけどな。    今日は、いつも電車で帰る部員が揃いも揃って彼女が待ってるとか言って先に帰ってしまったので、ボッチで夜道を歩く羽目になっている。  なんだか悔しくて、ひとりで残って練習してたら外は真っ暗だった。    羨ましい。  正直妬ましい。   (俺だってスッゲェ美形の彼氏いるぜ! なんて、言えるわけねぇもんな~)    サッカー部の仲間は結構モテてるのにどうして俺には彼女がいないのか。一応、エースストライカーだから目立つのに。  成長期前だからなのか。  空や光安(つばさ)みたいに身長があったら「恋愛対象じゃない」なんて言われないのかなぁ。それとも普通に性格かなぁ傷つくなぁ。 「だから待ち合わせで急いでるの!」  突然、女の人の語気の強い声が響いてきた。    そんなに栄えている訳ではない駅前は、明かりはあるけど薄暗い。そこまで治安が悪い訳ではないが、出来るだけ複数人で帰れと言われていた。  声のした方を見ると、黒いロングヘアが綺麗な細身のお姉さんと、いかにもチンピラっぽい中肉中背の男がいる。  背中に龍が描かれた派手なジャンパーを着たその男は、引き攣った表情のお姉さんの手首を掴んでいた。 「お姉さん嫌がってんだから離してやれよ! 警察呼ぶぞ!」  俺は後先考えず、大声で叫びながら走って近づいていく。  グラウンドで一番よく通ると言われる俺の声にビビったのか、ビクッと肩を震わせた男はすぐに振り返った。  でも、お姉さんの横に到着した俺を見下ろして馬鹿にしたように笑う。 「おいおい、中坊は帰ってろ~」 「高三だよ!」  訂正しながら、男の腕を掴んだ。  もうすぐ成人する年齢なんだよ一応!!  お姉さんの細い手首から引き剥がそうと力を込めるけど、なかなか離れない。  あんまりやるとお姉さんが痛い思いをするし、俺は悔しくて奥歯を鳴らす。 「どっちにしろガキだろうが! すっこんでろ!」  諦めない俺に苛立ったんだろう。怒声が聞こえたかと思うと、胸の辺りに衝撃が走る。  男が反対の手のひらで、俺を突き飛ばしたのだ。  手が、男の腕から離れてしまった。  驚いたお姉さんの、小さな悲鳴が聞こえる。
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