桜田と空の場合③

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「いくらなんでも食い過ぎだろ!!」  と突っ込みながらバシバシと背中を叩いたけど、 「先に食ったのはお前だろ」  と、どこ吹く風。  言い返せない。いや、俺もここまでは食べてないぞ。  文句を言いたい気持ちもあったけど、膨らみに膨らんだ噂話で想像してたよりも普通の高校生って感じで口が緩んだ。  良い奴、では正直ないんだけどな。女遊びが激しすぎて。でも誰にでも欠点はあるし。  次に告白する子がいて「恋人」って立場じゃなくなっても「友だち」でいられそうだ。  そう思うと、交友関係が広いと楽しいって思うタイプの俺は気持ちが上がってきた。 「あのさ、そういえば。俺のことはみんな『サク』って呼ぶぞ。」 「…サクラの方が似合うな」  仲良くしたいけどサクラは居心地悪いな、と、俺なりに遠回しに伝えたつもりだったんだけど。あっさり拒否される形になってしまった。 「どこがだ!?」  納得がいかなくて食いついた。 「桜」が似合うなんて初めていわれた。あの花はもっと綺麗で儚いイメージがあるだろ。  あえて男に使うなら、光安(つばさ)が嘘告白した転校生の桃野(とうの)みたいな。  凪は返答を考えているのか、視線を彷徨わせる。その間に食べ終えたチキンの袋をくしゃくしゃと丸めて、少し油のついた唇を舐めた。 「桜は、うるさい場所にあるイメージだ」  袋をゴミ箱に投げ入れながらようやく告げられた言葉は、やっぱり俺のことを馬鹿にしているように聞こえる。  そう言われると確かに、花見とかで桜の周りは賑やかなことが多いかもしれない。  その発想が、少し変わってて面白くて。俺は笑いながら文句を言った。 「うるさくて悪かったなー! 否定しねぇけど!!」 「似合うだろ」 「好きにしろよもー!」  凪の言う通りやかましくしていると、フッとその形の良い口元が弧を描いた気がした。
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