光安と桃野の場合①

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 俺が告白したのは桃野千秋(とうのちあき)。  珍しく、この春に転校してきた生徒だ。  まるで少女漫画から出てきたかのような美男子だと思う。初めて教室に入ってきた時、こんなことが本当にあるのかというくらい教室が騒ついた。  サラサラの黒い髪、白い肌に長いまつ毛。顔のパーツも全てが整っていて、どの角度から見ても崩れない。桃野が着ていると、なんの変哲もない学ランも特別な衣装に見えるほど。  男らしいというよりは、中性的でどこか色気のある雰囲気だった。  日に焼けて少し茶色っぽくなっている、手入れなんてしたことないボサボサの髪。無駄にでかい身体。  そんな男全開の俺とは大違いだ。  女子がこれでもかというほど集まっていたが、誰に対しても淡々とした態度で、あまり人と話すのが好きそうではなかった。  最近では、女子たちも諦めたのか綺麗な姿を眺めるだけになり、休み時間にはいつも1人で本を読んでいる。    そんな桃野だから、冗談が通じるのかは分からなかったけれど。  クラスにイマイチ馴染めていないし、これをきっかけに仲良くなれたらラッキーなんじゃないかと桜田(サク)が提案したのだ。  お節介な気もするが、嫌だったら今後も今まで通りなだけだろうからまぁいいだろう。    と、軽い気持ちで告白の定番、裏庭に連れ出して「好きだ」と伝えた。  嘘を吐いたというのと、例え嘘でも告白なんて緊張したのとで、心臓がバクバクだった。  断られるのを目を強く瞑って待っていたら、まさかのOK。 「本当にどうしよう…」  他の皆もそれぞれ色々なシチュエーションでOKを貰ってしまったらしいのだ。  俺たちはとりあえず、明日謝ろうなと言い合ってスマートホンのメッセージ画面を閉じた。  スマートホンをベッドに投げ出して大の字になる。 「…また明日…って言ってたな…」  流れでそのまま一緒に帰った時の、桃野の顔や、声を思い出す。  表情はほとんど動かないけど、柔らかい居心地のよい空気を持っていて。  女子たちが夢中になるのも分かるなぁと思ってしまった。    明日、告白は嘘でしたって言ったら、一体どんな顔をするんだろう。  
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