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俺が告白したのは桃野千秋。
珍しく、この春に転校してきた生徒だ。
まるで少女漫画から出てきたかのような美男子だと思う。初めて教室に入ってきた時、こんなことが本当にあるのかというくらい教室が騒ついた。
サラサラの黒い髪、白い肌に長いまつ毛。顔のパーツも全てが整っていて、どの角度から見ても崩れない。桃野が着ていると、なんの変哲もない学ランも特別な衣装に見えるほど。
男らしいというよりは、中性的でどこか色気のある雰囲気だった。
日に焼けて少し茶色っぽくなっている、手入れなんてしたことないボサボサの髪。無駄にでかい身体。
そんな男全開の俺とは大違いだ。
女子がこれでもかというほど集まっていたが、誰に対しても淡々とした態度で、あまり人と話すのが好きそうではなかった。
最近では、女子たちも諦めたのか綺麗な姿を眺めるだけになり、休み時間にはいつも1人で本を読んでいる。
そんな桃野だから、冗談が通じるのかは分からなかったけれど。
クラスにイマイチ馴染めていないし、これをきっかけに仲良くなれたらラッキーなんじゃないかと桜田が提案したのだ。
お節介な気もするが、嫌だったら今後も今まで通りなだけだろうからまぁいいだろう。
と、軽い気持ちで告白の定番、裏庭に連れ出して「好きだ」と伝えた。
嘘を吐いたというのと、例え嘘でも告白なんて緊張したのとで、心臓がバクバクだった。
断られるのを目を強く瞑って待っていたら、まさかのOK。
「本当にどうしよう…」
他の皆もそれぞれ色々なシチュエーションでOKを貰ってしまったらしいのだ。
俺たちはとりあえず、明日謝ろうなと言い合ってスマートホンのメッセージ画面を閉じた。
スマートホンをベッドに投げ出して大の字になる。
「…また明日…って言ってたな…」
流れでそのまま一緒に帰った時の、桃野の顔や、声を思い出す。
表情はほとんど動かないけど、柔らかい居心地のよい空気を持っていて。
女子たちが夢中になるのも分かるなぁと思ってしまった。
明日、告白は嘘でしたって言ったら、一体どんな顔をするんだろう。
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