杏山と土居の場合③

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杏山と土居の場合③

 土曜日、午前8時の公園。  芝が広がる広い場所で、遊歩道に囲まれている。  そこに俺は子犬のリードを持って立っていた。  じいさんばあさんが散歩してお喋りしたり、他にも犬の散歩に来ている人がいたりするのが見える。  正直まだ眠い。  でも、夜はちゃんと担当してるとはいえ、朝の散歩はばあちゃんがやってくれてる。言い出しっぺとしては休みの日くらいはやらないとダメだよなと重い腰を上げた。  ばあちゃんの家に着いた時、俺の顔を見て嬉しそうに寄ってくる子犬の姿を見たら早起きの甲斐があるなぁと思った。  この数日で、ばあちゃんにすごく懐いてるけど、散歩は俺との方が好き勝手走れるんだと思う。  なんせ若いからな俺!    そしてもうひとつ、わざわざ朝早くに散歩に来た理由は。 「悪い! 待たせか?」  こいつだ。  黒い半袖のTシャツとハーフパンツという姿で遊歩道を走ってくる土居が近づいてきた。  日に焼けた肌に白い歯で、眠気なんて感じられない爽やかな雰囲気。そしてやっぱり顔がいい。こいつとナンパいったら絶対成功して逆に惨めな思いしそう。 「今きたとこ! ってか、もしかして走ってきたのか? なんて……」 「ああ、丁度いいランニングコースだと思って」  土居は目の前に来ると、俺に答えながら片膝を立ててしゃがむ。仔犬は笑いかけられて、人懐っこい声を出しながらブンブンと尻尾を振った。 「この後、部活いくって言ってたのに自転車なくて大丈夫か!?」 「今日は午後からなんだ。走って行けなくもないけど荷物があるからな。散歩終わったら1回帰って自転車で行くから大丈夫だよ」  なんでもないことのように言ってくるということは、無茶な距離でもないのだろう。  仔犬の様子が気になるみたいだったから、 「一緒に散歩してみるか」  って誘ったら、部活の前に来るといってきた。  なんか忙しいのに要らんこと言ったかなって思ってたから少し安心した。 「土居の家、意外と近かったんだな」 「ああ、2駅分くらいだ」  なるほど。  俺なら絶対走ってはこないな、うん。  自転車ならともかく。  感覚が違うんだろうな。  事前に俺が教えた通り、仔犬が擦り寄ってくるのを待ってから撫で始めた土居。  なんかもう綺麗な宇宙人にしか見えなくなってきた。  
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