杏山と土居の場合④

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さて、渡すものは渡したし帰ろうと足を動かしたとき、水坂に呼び止められた。 「そういえば、杏山って梅木(うめき)と仲良いよね」 「ああ、家が近所だからな。幼なじみってやつ」 「そういうことか」  合点がいったというように頷く姿を見ただけで何を考えているかがわかる。  チャラいと言われる俺と地味でオタクっぽい梅木(まもる)は、傍から見たら一緒にいるタイプではないから不思議に思ったんだろう。  梅木(まもる)が俺に話しかけてくる度に一緒にいる奴に質問されたから慣れている。  水坂はその完璧な顔をまっすぐ俺に向けてきた。 「だったら、梅木のこと色々知ってるよな?」 「ま、まぁ……うん」  賢いやつだから嘘の告白のことがばれていて、今から追及されるんだったらどうしようと、内心ヒヤヒヤしながら頷く。 「梅木が好きなものとか、貰ったら喜ぶものとか知らないか?」  普通に恋人っぽい質問が来た。 (ここであいつが好きなアニメキャラクターとか答えたら怒られるんだろうな)  俺は幼馴染が「お前水坂に何を吹き込んだんだよ!」と顔を真っ赤にして怒っているのを想像して他の案を考えることにした。 「んー……すっげぇ甘党だよ。昼メシがパンの時は全部甘いやつの上にココアとかいちごミルクとか飲んでる」  甘い食べ物ならプレゼントもし易いしデートにも繋がり易いだろうと、無難なものをお伝えする。 「売り切れてたからしょうがなくって、あいつ……」 「え?」  眼鏡の位置を指で直している水坂から、聞いたことのない低い声が出た気がして聞き返す。 「いや、なんでもない。教えてくれてありがとう」  こちらを改めて見た水坂は、いつもの優しそうな生徒会長だった。気のせいか。  俺は、こんな良いやつをだましているのが申し訳なくなるとともに興味がわいてきた。  梅木(まもる)はまだ真実を伝えられていないと言っていたが、あの恋愛初心者と生徒会長はどんなお付き合いになっているのだろうか。 「真守(まもる)と、最近その、仲良いのか?」  我ながら探りを入れるのが下手すぎた。  だがそんなことより、次の一言で明らかに水坂を纏う穏やかな空気が一変したことを肌で感じた。 「まもる?」  先ほどとは違い、声はいつも通りだ。  でも俺は「笑っているのに目が笑っていない」ヤツを今、初めて体験している。 「えと、あいつ、梅木真守(うめきまもる)って……」  いやいやそのくらい水坂なら知ってるだろう。  先ほどの疑問形はそういうことじゃない。  しかし、ビビりすぎてコミュ障みたいな返事しか出来なかった。 「……うん、仲良くしてくれてるんだ。真守くん」   (呼び方変わりましたね)    俺の本能が言っている  俺は今、なんかミスった。  もしかして、穏やかそうに見えて独占欲強いタイプだった? 
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