光安と桃野の場合②

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 身長の話からは会話があまり弾まず、桃野が静かに弁当を食べる横顔を眺めながらおにぎりを3つ食べ終えた。  ふと、桃野が箸を止めて俺の方へ顔を向ける。 「......あの、光安......人のこと言えないから申し訳ないんだが…」 「へ?」  間抜けな声で返事をすると、俺から目線を逸らして遠慮がちに唇が動く。 「その、ずっと見られてると、食べにくい......」 「あ、わ、悪い! なんかその......! そう! 弁当が美味そうでつい!!」  俺は焦って弁当箱を指差した。  まさか顔に見惚れていたとは言えない。  いや、言っても変じゃないのか。桃野は俺が桃野のことを好きだと思っているのだから。  誤解を深めるだけだから言えないけど。    適当な言い訳だったけど、桃野は納得してくれたらしい。 「ああ......お前、おにぎりだけだったからな。どれか食べるか?」 「いいのか!?」  遠慮のかけらも無く、食い気味に返事をしてしまった。 「昨日の晩御飯の残りを詰めただけだけどな。」  桃野の弁当箱の中を改めて見る。  深緑の長方形の中に、海苔の巻いてあるおにぎりの他、唐揚げ、卵焼き、ひじきの煮物っぽいの、トマトやきゅうりの定番野菜等、ザ・お弁当というものが入っていた。 「夕飯、唐揚げだったのか。」  羨ましい。 「一昨日、鶏モモ肉が安かったんだ。」  見た目に似合わず家庭的な理由だった。  しかし、桃野は親の仕事の都合で一人暮らしだと昨日の帰りに言っていたから、自分で作ったことになる。すごすぎる。  唐揚げってトリモモニクとやらから作れるのか。  半分ほど無くなっていた弁当箱の中から、唐揚げを取って差し出してくれる。話題に出したから気を使わせたかもしれない。 「しかもメインをくれるのか。すごいなお前。」 「…トマトとか、渡されても微妙じゃないか?」  うん、まぁそれはそうかもしれない。  卵焼きでも嬉しいけど。  俺は口を大きく開けて、唐揚げを入れて貰う。  口の中に、じゅわりと旨味が広がっていく。  咀嚼しながら口角が上がった。 「おー! この唐揚げ美味い!! スッゲェ美味い!! 天才か!!」  飲み込んだ後、テンション高く褒めちぎる。  本当に美味しかった。  すると、 「口に、合ってよかった…。」    ずっと精巧な人形みたいだった顔が綻んだ。   (…きれいだ…)    そんなわけないのに、唐揚げの後味がなんだか甘く感じた気がした。  
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