梅木と水坂の場合①

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 先生が屋上から出て行った後、桜田(サク)が丸い目をキラキラさせていた。  すごく嫌な予感がしたがら別の話を被せてスルーしたかったけど、桜田(サク)が口を開く方が早かった。 「やろうぜ! 次の英語の単語テストでビリだったやつが(そら)に告白な!」  それを聞いて杏山(りょう)は笑ったが、俺は真っ青になった。 「やめとけよ告白なんて嘘でするもんじゃねぇよ!」  俺は桜田(サク)が指定した空凪(そらなぎ)を頭に思い描く。  超のつく美形だけど、金髪でとても怖いと噂の不良だ。  流石にちょっかいをかける相手を間違えすぎている。  そんな奴を目の前にしたら、俺なんかは一言も声が出せない不審者となり果てるに違いない。  だが、ここで俺は勝負の内容を冷静に考えた。  正直、テストならこのメンバーに負けることはまずない。  俺、ちゃんと勉強してきたし。  杏山(りょう)光安(みつやす)なんか、そんなのあったっけって顔してるし。  だから、魔が差してしまった。  「大丈夫」という桜田(サク)の根拠のない自身と、光安(みつやす)の承諾もあり、勝負することになった。    そして、元凶の桜田(サク)が罰ゲームをすることになる。  なんで勝算ないのにテストの点数で競おうとしたんだろう。  万が一があるかもと思っていた俺はホッとした。  だというのに。  桜田(サク)は、 「俺だけは嫌だ!」  と、駄々っ子のようなことを言い出した。  自分に正直な性格とそれに似合う童顔や小柄な体も相まって、俺たちはついつい桜田(サク)を甘やかしてしまう。  もう一勝負しようか、と。  そんな仏心は捨てるべきだった。  無情にも次の勝負は「体育のマラソン」。 「俺がいっつもビリなの知ってるだろ! 鬼か!!」  抵抗したけど全く意見は通らなかった。酷過ぎる。  そしてやっぱりビリだった。  その後は漢字テストでまさかの0点だった光安と、特に負けてないけど杏山(りょう)もノリで巻き込んで。  4人でそれぞれ違う人に告白することになってしまった。    相手は空も含め女子に人気のイケメンばかり。  きっと告白なんてされ慣れている。  しかしだからといって嘘告白なんて、いざ自分がやるとなると全然面白くない。  ちゃんと止めれば良かった。  他の皆が本当にやりそうなメンバーだからやるしかないけど。    俺たちは、全員が放課後に告白して、帰ってから結果報告しよう!  と決めて別れた。    俺たちはこの時、当然皆がふられるのだと、そう思っていた。  
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