梅木と水坂の場合①

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 俺が告白したのは水坂龍興(みずさかたつおみ)。  クラスメイトで、この学校の生徒会長だ。  文武両道、眉目秀麗、温厚篤実、おまけに家が金持ちという、絵にかいたような殿上人系男子である。  さらりとした黒髪、たれ目気味の彫の深い顔にフレームのない眼鏡が良く似合っていて、常に周りには人が集まっている。  目立つのが苦手で、学校行事では出来るだけ存在感を消し、趣味といえば漫画アニメラノベなどオタク趣味で地味な俺とは真逆の存在だ。  俺だって眼鏡を掛けてるのに全くカテゴリが違う。  ほとんど話したことはないが、いつも皆に優しくて、冗談なんかも言って笑ってる水坂のことだ。下々の者のお遊びくらい笑って流してくれることだろう。  他の3人が告白する予定の、怖い不良や冗談が通じるか分からない転校生や野球部主将よりよっぽどハードルが低い。  眩しい存在過ぎて話しかけるの、すごく緊張するけど。  そんなことを考えながら、俺は生徒会室へと足を運んだ。  部屋に入ると、まだ水坂しかいなかったのでこれ幸いと告白したわけだ。  で、何故かオッケーされてしまう。 「え、あの……え?」  笑顔で近づいて来る水坂に対して、碌な言葉も返せない。  水坂は俺の目の前で足を止めると、顔を近づけて片目を瞑った。 「なーんてね」 「へ」  茶目っ気たっぷりな仕草に、俺は真顔になるしかなかった。 「罰ゲームか何かだろ?」 「え」  男同士でもイケメンの破壊力がすごい。  俺が女子だったらあまりの攻撃力に耐えられず霧散したことだろう。  人の言葉を上手く紡げない俺に対して、水坂の楽しげな笑顔が気遣うように変化していく。 「あれ、ごめん、違った? もし本気だったなら……」 「合ってますあってます!! マラソンビリの罰ゲームです!!」  俺は焦って無駄にデカい早口で否定して、首を上下に勢いよく振る。同い年なのについ敬語になってしまった。  本気だったらどうするのか気になるけどそんなこと言ってる場合じゃない。  肩を撫で下ろした水坂は、ポンと俺の肩を叩いた。 「やっぱり。ダメだよ、俺じゃなかったら本気にして傷つくかもしれない」  注意しながらも軽い口調だ。責める感じはないから、生徒会長として言っとくよってことなんだろうか。  何食ったらこんなに出来たお人柄になるんだろう。時間を無駄にさせて申し訳ない限りだ。  俺は苦笑いで頭を下げた。 「ご、ごめんなさい。では以上なのでこれで失礼しますぅ!?」  クルリと背を向けた瞬間、腕を掴まれて体がバランスを崩す。
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