梅木と水坂の場合②

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 緩く握ったり開いたりしながら弄ばれている俺の手は、じっとりと汗ばんでいると思う。  心臓が早鐘のように打つ中、「気持ち悪くないのかな」などと思考が明後日の方向へ飛んでいく。  そもそも水坂って、こんなに性格悪そうなやつだったっけ。  もっと話し方も柔らかくて、爽やかで優しい奴だった気がするけど。  今更ながら、普段と違う雰囲気に突っ込むことにした。 「あのさ、水坂。なんて言ったらいいか……そのキャラどうした」 「キャラ?」  嘘だろ伝わらないのか。  キョトンとされてしまって内心頭を抱える。「キャラ」ってオタク用語じゃないと思うんだけど。  俺は必死に伝わりそうな言葉を考えた。 「いつもと、なんか違う気がするなって……」 「かわいい恋人の前だから素なんだ」 「とりあえずそういうの良いから」  いい笑顔で誤魔化そうとしても無駄だ。  お前を本気で好きな子なら誤魔化されてくれるかもしれないけどな。 「チッ」 「え、舌打ちしました?」  急に表情が歪んだ水坂からは、普段の人の良さげな面影が消え去っている。  舌打ちの次は、大きな溜め息が聞こえてきた。  ファンが見たら泣いてしまいそうな、不機嫌そうな顔だ。 「あほみたいにニコニコ笑って優等生すんの、疲れたんだよ」  吐き捨てるような台詞を聞いて、俺は逆にテンションが上がった。 (漫画のキャラみたいだ) 「せっかくモテても猫被った俺を好きな女子と付き合う気になんねぇし。でも付き合ったりとか、1回くらいしてみたいと思って」  そうこうしている内に3年生になってしまったらしい。  より取り見取りなのにもったいない。  そんな時に脅しやすいネタを持って俺がやってきたということか。  いやいや、だからって男に行くか普通。  姉ちゃんの持ってるBL漫画かよ。 「ていうか恋人、欲しいと思ってたの意外すぎる……」  てっきり、勉強に集中したいから恋愛している暇がないとか、そういう理由で断ってるのかと思ってた。  俺の呟きに対して、絡めあったままの親指が俺のそれを撫でてくる。 「お前、思わないのか」 「いやそりゃ付き合ってみたかったけど……現実味なさすぎる。俺に彼女とか」 「女子の眼中に入ってなさそうだもんな」 「ムカつく!」  図星をつかれた俺は、繋ぎっぱなしだった手をバチンと振り払う。 「事実だろ」  そう嘲笑って手をプラプラとさせる水坂を睨め付ける。  たしかに女子と話すことなんてほとんどないけど!  事実でも、いや、事実だからこそ腹が立つ!  俺はそっぽを向いて、八つ当たりするようにメロンパンに齧り付いた。  
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