梅木と水坂の場合③

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梅木と水坂の場合③

   1週間弱で慣れてしまった生徒会室での昼ごはん。  俺は水坂に貸した漫画について、怒涛の勢いで語っていた。  貸した5巻分は全部読んでくれていたので、その範囲内で語れることを語り尽くす勢いだった。  水坂はすごく上手く相槌を打って話を聞いてくれていたのだが、その途中でふと真面目な表情になって黙ってしまう。  俺はそれだけで正気に戻った。 (やべ、調子に乗ってひとりで喋りすぎたかな)  落ち着かない気持ちでいちごミルクのストローに口をつけると、水坂は形の良い眉を顰めた。 「なぁ、お前飯……毎回甘い飲み物に甘いパン……」  その指摘に、俺はある意味ドキッとした。  机の上には食べ終わったチョココロネの袋、手にはいちごミルクのパックとクリームパン。  水坂の栄養バランスの整った弁当と比べると雲泥の差だ。  でも、甘いのが好きなんだ甘いのは正義。  正直に甘党だからって言えば良い話だったけど、なんか説教されそうな空気を俺は感じ取った。 「足遅いからこれしか残ってなくてさ」  漫画語りをしている時以上に早口で言い訳をする。  怪訝そうな顔で水坂が何か言ってこようとしていたので、話題を変えようとそのまま俺は喋り続けた。 「ところでなんで水坂は本性隠してるんだ? 疲れるんだったら今の感じで過ごせばいいのに」  今からいきなりキャラ変はしんどいとは思うけど。  そもそも、初めから猫被りをしなければ疲れることもなかったはずだ。 「この感じでいる方が疲れんだよ。周りがうるさくて」  話を聞いてみたところ、水坂は小学生の頃までなんでも思ったことを口にして正論で相手をぶっ叩くタイプだったらしい。  言葉遣いも乱暴で、女子は泣かすし男子すら離れて行くし大人には叱られるし散々だったと。  面倒になったので「真面目で優しい」仮面を付けて中学校に上がったらあら不思議。人気者になった。  いやまて。すごいな。普通の人間はそんな簡単に変われないし、人気者にはならないぞ。  顔か。顔なのか。 「言いたいこと言わないで笑ってりゃイージーモードなんだよ。見た目だけは無駄に良いからな」 「自分で言いやがった」 「頭も運動神経も良いしな。ついでにこれは賢そうに見せるための伊達メガネだから視力も2.0だ。お前は全部ないから羨ましいだろ」 「なんでそんな酷いことが言えるんだ!!」  これでも勉強は人並みだぞこの野郎! 「でも、お前は性格が良いからなんとか自分を隠さず生きられてるだろ。俺と反対だ」 「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」 「褒めてんに決まってるだろ。素直に喜べ」 「なんか嬉しくない。俺は俺を性格が良いとも特に思わないし」 「良いだろ。俺の本性知っても幻滅したとか否定的なこと言わないんだから」 「びっくりはしたけどな。なんか、面白くなってきた」  普段と全然態度が違う水坂は、漫画の登場人物みたいだなという感想しかない。  イケメン生徒会長に加えて裏表があるなんて。  
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