56人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな俺の気持ちを見透かしているのか、水坂はため息をついた。
「杏山に聞いた。お前、甘いものが好きなんだって?」
「ダメか?」
杏山のヤツ、要らないことをこいつに教えやがって。
「別に良い。でもだからって毎日甘いパンに甘い飲み物は病気になるぞ」
「う」
「これからは俺がちゃんと管理してやるから、持ってきた弁当を食え」
言っていることは理解できる。
甘いパンと甘い飲み物を毎日昼ごはんにしている俺は、相当不健康だと思う。
でも、水坂の言い方はあまりにも上から目線だ。管理してやるってなんだ。頼んでねえよ。
なんでそこまでしようと思ったのかは謎でしかないが、俺の不健康な幸せを邪魔しないでほしい。
その一心で俺は荒い口調で、水坂に反抗した。
「なんでお前に管理なんてされないといけないんだよ! 余計なお世話すぎだ!」
「お前のためだろ!」
「押し付けがましいな! 俺はこう見えても健康なんだよ!」
「年取ってからくるんだよそういうのは!」
ヒートアップした水坂の拳が机を強く叩きつけると、弁当が揺れた。
大きく鳴った音に怯みそうになるが、これは負けられない戦いだ。
「俺が年取った後のことなんかお前に関係ないだろ! どうせ期間限定のごっこ遊びなんだから!」
「……!」
王手になったらしい。
水坂が黙った。
俺は肩で息をしながら、何故か桃野の弁当が頭をよぎる。
(桃野は光安の好きなものを弁当に詰めてたのに!)
光安のことを本気で好きだったらしい桃野と、目の前にいるごっこ遊びに巻き込んでくる相手を比べてしまったら、妙に悲しくなってきた。
気持ちがまとまらないまま、俺は勢いよく立ち上がる。
イライラをそのままに、弁当を置いて出口へと足をドスドスと進めた。
そしてドアの前にくると、もう一言だけ何か言ってやろうと水坂を睨み付ける。
が、俺は口をつぐむ。
眉を寄せて唇を引き結んだ水坂は、今にも泣きそうに見えてしまった。
(な、なんだその顔……!)
胸が締め付けられるのを感じながら、俺は逃げるように生徒会室を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!