梅木と水坂の場合⑤

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梅木と水坂の場合⑤

 完全に喧嘩したみたいになってしまった。  他人と争ったことなんてほぼ無い俺は、翌日登校拒否したい気分だった。  でも、鬱々とした気持ちでもなんとか登校した。俺は偉い。  ずっと、別れ際の水坂の表情が頭から離れない。 (あんなに辛そうな顔しなくても……俺が悪いみたいじゃんか)  せっかく善意で忠告してくれたのに突っぱねたのは俺だから、俺は悪くないとは言えないかもしれないけど。  それでも水坂の言い方は横暴だったと思うし、俺は間違ったことは言っていないと思う。 (あとなんか、なんかこう……悲しいというか空しくなったというか……なんでだろう)  授業中ずっと、頭の中がもやもやとしたままだ。先生の話なんて入ってきやしない。  頬杖をついて離れた席に座っている水坂の方をちらちらと見る。  真面目にノートをとる整った横顔は、いつも通り涼しげだ。  こっちはこんなに頭を悩ませてるっていうのに。  あの傷ついたような表情はなんだったのだろう。 『どうせ期間限定のごっこ遊びなんだから!』  そう改めて口にしたとき、なんだか胸がちくりとした気がする。  今も、思い出しただけなのに落ち着かない。 (友だちとしては、悪いやつじゃないし……卒業したら縁が切れるっていうのは寂しいかも……)  そんなことを考えていると、バチっと水坂と目が合ってしまう。  慌てて逸らしたけれど、見ていたのはバレてしまっただろうか。  もう一度視線を向けると、水坂はまだこっちを見ていて。  俺は思わず開いた教科書で顔を隠した。  そして。  次の休み時間、水坂に声を掛けられてしまった。    水坂は「ふたりきりで話したい」と言って、俺をわざわざ1階の階段下まで引っ張って来た。  個室ではないが、人通りの少ない隅っこの階段下は、確かに人目に付きにくく「ふたりきり」という状態と言えるだろう。  澱んだ沈黙を破ったのは、頭を下げた水坂だった。 「ごめん」 「え?」 「昨日は勝手なこと言った。お前のことが、心配で」 「……俺も、水坂の方が正しいのになんか逆ギレし」  言葉を荒げてしまったことを謝ろうとしたのだが、途中で水坂の人差し指が俺の唇に触れた。  強い瞳に射抜かれ、そのまま口を閉じてしまう。 「俺がやりすぎた。お前もそう思うだろ」 「……ちょっと思う」  また苛立たせる可能性も考慮しつつ正直に答えると、水坂はどこか嬉しそうに口元を緩めた。  意外だ。  お前が悪い、と言ったようなものなのに機嫌が良さそうなのは不思議だった。  けれど、続いた言葉で頭の中のことは全て吹っ飛ぶ。 「お前が好きだから、将来のことも心配なんだ」 「!?」  俺は目を見開いた。  聞き間違えだろうか。  サラッと何か言われた気がするけど。 「え、なん、なんて?」 「聞こえなかったのか? お前が好きだ」  改めて、ハッキリと言われた。  水坂が、俺のことを、好き?
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