梅木と水坂の場合・完

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 なんとなく足音を忍ばせて生徒会室に向かう。  丁度、部屋から生徒会役員が出てくるところだった。  二次元みたいな華やかさはないけれど、やっぱりみんな陽のオーラを放っている気がする。 「じゃあ鍵はよろしくな水坂!」  そういって部屋に手を振っている男子生徒を見て、水坂はまだ生徒会室にいるのだと分かった。  ひとりで残っているのだとしたら、俺は運がいい。  生徒会役員が立ち去るのを見計らって、足早に部屋の前に立った。  しかし、ノックをしようとしたところで手が止まる。 (なんて言おう? 一緒に帰ろう、とか? もしまだやることがあるんだったら邪魔だよな……)  いつも向こうから話しかけてくれるもんだから、自分からというのが気恥ずかしい。  やっぱりやめて帰ろうか、などと考えていると目の前の引き戸がガラっと開いた。 「わ……!」 「あっ、ごめん」  戸を開けるのとほぼ同時に一歩踏み出したらしい水坂と、体がぶつかり合う。  咄嗟にバランスをとろうと水坂の服にしがみつくと、素早く腰を支えられた。 「ま、真守?」  俺の顔を確認すると、長いまつげに縁どられた目が瞬く。 「や、あの、その! 違う、間違えました失礼しました!」 「いや待て待て!」  焦った俺は意味不明なことを口走りながら体を離した。そのまま背を向けようとしたけど、あっさりと捕まってしまう。 「俺に用なんだろ? 入れよ」  一緒に帰ろうとしただけだから生徒会室に入る必要はなかったけど、それを伝えることが出来なかった。  水坂は入り口を静かに閉めると、唇の片端を上げた。  俺を揶揄ってやろうっていうのが見え見えだ。  そうはいくか。 「で? ようやく告白を受ける気になったか?」 「うん」 「え?」  自分で聞いたくせに、間髪入れずに答えてやると面白いくらいに水坂の目が見開かれた。  俺は俺で、予定にないことを口走った自分に驚いていた。  なんで肯定してるんだ。  混乱したけれど、自分の気持ちもわかってるし、先生たちには筒抜けらしいし、勢いも大事なんじゃないかって。  俺は急に開き直った。  スッと大きく息を吸う。  改めて言葉にするのは緊張するけど、嘘の告白をした時の嫌なドキドキはなかった。 「水坂、俺」 「待て」 「……!?」  水坂の手が、ようやく形にしようとした言葉を阻んだ。  なんだよ! と言いたいのに、もごもごとしたくぐもった音しか出ない。  不満を視線に乗せて送ると、真剣な瞳に見つめ返される。 「また罰ゲーム、とかはごめんだぞ」 「んなわけないだろ!」  俺は水坂の手首をつかんで怒鳴った。  そう思われるのは自業自得だけど。  流石に、好意を寄せてくれる相手にそんな酷いことをすると思われるのは遺憾だ。  告白しようという気持ちが一瞬で消えてしまう。 「ていうか、俺だってまだお前が俺のこと好きなの信じてないぞ!」 「は?」  強く言い切った俺に対して、水坂の声のトーンが低くなった。  立腹を隠さず、眉を寄せて睨んでくる。 「お前、ふざけんなよ。俺がこんなに好きっつってんのに」  怒鳴っているわけでもないのに、空気が震えている気がする。  好きを伝える態度がなってないと思う。  向かい合って話すのが怖い。
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