元凶・肥護先生と海棠先生

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「肥護先生、仕事はまだかかりそうですか?」 「んー……そうですね……」  授業で使うプリントを作るためにパソコンに向かいながら、俺は上の空で返事をする。  さっさと帰りたいところだが、これを終わらせておいた方が週末が楽だ。  どういうレイアウトにすれば分かりやすいかと考えながら画面上で図形を動かす。  そんな俺の横からパソコンを覗き込んでいる同僚の海棠先生は、お構いなしに更に話しかけてきた。 「もし終わりそうだったら飯一緒に行きましょう」 「たった今終わりました」  俺は即座にデータを保存し、パソコンの電源アイコンへとマウスを動かす。 「どう見ても嘘だろ」  俺にしか聞こえないような音量で、素になってしまっている声を聞き口元が緩んだ。  カラカラと椅子の音をさせて立ち上がり、泣き黒子が特徴的な海棠先生の目元を見下ろす。 「急ぎじゃないんで。どこいきます? なんか買ってうちで食ってもいいですよ」 「じゃあ、家にお邪魔します」  珍しい。  いつも来る時は週末なのに、今日はどういう風の吹き回しだろう。 (だいたい想像つくけど) 「お疲れ様ですー! おふたりは本当に仲良いですねぇ」  手早く机の上のものを引き出しに突っ込み、鞄を引っ掴んだところで声をかけられた。  それにいつも通り軽く答える。 「高校の青春を共にした仲なんでね」 「お先に失礼します」  まだ職員室に残る同僚たちに、海棠先生はにこやかに頭を下げた。  適当に手を振って部屋を出ようとしていた俺とはえらい違いだ。  ドアを閉めると、俺たちは並んで廊下に足音を響かせた。    
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