元凶・肥護先生と海棠先生

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「お前なぁ! 奇跡的に丸く収まったから良かったものの……!」  ダイニングテーブルにガンッとビールの缶が叩きつけられた。  コンビニで適当に買った弁当のプラスチック容器が揺れる。 「今日もお互いお疲れ様」と乾杯し、「仕事後の一杯は最高だな」と笑い合った直後のことだった。  職場での丁寧な口調を取り払った海棠は大きな目で俺を睨みつけている。  心当たりしかなかった俺は、肩をすくめてとぼけることにした。 「なーんのことー?」 「光安に聞いたぞ。お前が罰ゲーム告白の話をしてたから桜田が乗ったって」 「マジでやるとは思わなかったな! 今も昔もガキは馬鹿だなー!」 「ふ、ざ、け、る、な!」  声と共に力の入った海棠の指によって、アルミ缶が潰れそうだ。いや、僅かだが変形している。  勿体無いから、中身が入った状態で興奮させない方がいいな。  俺は自分の缶に口をつけた。 「懐かしいなー。俺たちはあれからつるむようになったよな」  そう。  俺は当時、同級生で顔しか知らなかった海棠に罰ゲームで告白した。  絵に描いたような爽やか君で、笑顔の中心に立っているような男。  それに対して俺は、群れてないと落ち着かないようなタイプの不良。  全然違う種類の人間だった俺たちは、一度接点を持つと互いのことに興味を持ち始めた。  一緒にいるようになってすぐは、教師が海棠を心配して声を掛けてきたもんだった。 「話を逸らすな」  思い出話で場を和ませようとしたのだが。  どうにも怒りは収まらないらしい。  当たり前か。完全に話題を間違えたな。 「ま、お前は水坂や桃野の心配してたから良かっただろ。俺も空が落ち着きそうで一安心だ。愛の力って偉大だなー」  大人が手出しできることなんて、実はそう多くない。  いつも他人と一線を引いている水坂や、前の学校で一悶着あったらしい桃野は、海棠が気にかけていた。  2人とも、表面上は何も問題ない優秀な生徒だからなかなか踏み込めないでいたらしい。  空に関しては俺が元ヤンだから親身になれるだろって入学した時から任された。  勘弁して欲しかった。  優等生の道を歩んできた奴らにはわからないだろうが、俺のガキの頃とは全然タイプが違う不良なんだわ。  一匹狼の空と群れてイキってたタイプの俺では、物語の主人公とモブくらい違った。  雑談してくれるくらいにはなったけど。  俺はただ、生徒に自分の高校生時代のバカ話をしただけのつもりだったが。  偶然にもアホたちの罰ゲームが、良い感じに作用した。
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