元凶・肥護先生と海棠先生

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 だが、俺の言葉を聞いた海棠はため息をついた。 「一歩間違えれば致命傷だよ……杏山が泣いてた時は本当にどうしようかと……」 「若い時ってそんなもんだってーアホなことして致命傷だらけ。俺らもそんなだったろ」  手を振って軽く笑った俺に、海棠が箸で弁当の唐揚げを持ち上げながらジト目で視線を寄越す。 「それは10年前に罰ゲーム告白したり、付き合ってたのに高校卒業と同時に姿を眩ましたり、ようやく再会したと思ったら『五胯がバレて修羅場だから家に泊めてくれ』って家に転がり込んだりして出来た傷か?」 「誰だよその酷ぇヤツは」 「お前だよ!!」  耳を塞ぎたくなるような所業の数々。  ごめんなさいしかない。  俺は俺なりに悩んで行動したはずなんだが、今思えばただのバカだ。  そして海棠にそんな仕打ちをしておいて、そんなこともあったなぁと思っている今の俺も大概だった。 「生徒には俺みたいな大人になるなって言っとかねぇとなー」 「やーいやーい反面教師ー」  なんだかんだで楽しげな海棠もどうかと思うが。  色々あったけど、結局は俺を許してくれた甘くて優しい爽やか君。  今では互いの関係が随分落ち着いた。  俺は箸を置いて、テーブルに置かれた左手に自分の右手を添えた。  急になんだ、と見てくる瞳を真っ直ぐ見つめ返した。 「俺、お前が好きなんだ」 「俺もだ。なーんてな。この手の罰ゲーム、3回目なんだ。騙されないぞ!」 「そっちじゃないだろー違うバージョンで頼む」  笑顔で紡がれた懐かしい返答に大袈裟に頭を抱えて見せると、海棠は眉を寄せた。 「俺もだ、なんて言うわけないだろ。どのツラ下げて言ってんだよ。このチンピラスケコマシ」 「そのパターンもあったなそういえば」  俺は一体、何回こいつに告白したんだったか。  そう考えると笑ってしまう。 「懐かしいよな。……酔ってきたからサービスだ。告白からもう1回」  ようやく気持ちが乗ってきたらしい海棠が、重ねた手の指先を絡めてくる。  気分が良くなって、俺は口元に弧を描いた。 「俺、お前が好きなんだ」 「俺もだよ。で良いのか不良教師」 「後半要らねぇなー」  目を合わせて笑い合う。  今でも、前と変わらぬ笑顔が近くにあるから。  青春時代が昨日のように思い出せるんだ。  嘘から始めた青春だったけど。  蓋を開ければ本物だった。                                おしまい
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