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「被検体796の準備は完了しました」
にゃあ、と柔らかな鳴き声がする。鳴き声の主は猫。名前はフェリセットと言う。
この研究所で、その被検体は宇宙飛行士――猫なのでこの言い方が正しいかは分からないけれど――となるべく、耐重力訓練や神経系の調整などをこの研究所で行ってきた。
もともとは野良猫だったその猫が被検体になるまでにはさまざまなドラマがあったろうが、それはそれで、今は関係ない。僕の仕事はこの被検体を被検体として使えるようにすることだけなのだから。
ソ連が犬のライカを宇宙に打ち上げてから6年。この国も“初めて”が欲しいらしい。犬ではソ連の真似事だ。では、ということで白羽の矢が立ったのが“猫”だった。
僕が今回の宇宙旅行の被検体に選んだ猫、フェリセットは被検体として素晴らしかった。安定した気性、身体も大きく健康体。
そうしてフェリセットは、今日、1963年10月18日、宇宙へ旅立つ。
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