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無意識のうちに伸ばした指先は、柔らかなその背に触れる。じわ、と伝わってくるぬくもり。
あたたかい――生きているものの、ぬくもり。
命の、ともしび。
ああ、神様。今だけは終わりにしてもいいだろうか。演じることを、やめてもいいだろうか。
「……よく、戻ってきたね」
鼻の奥がツンと痛むのを感じながら、目頭が熱くなるのを感じながら――僕は目の前の猫を抱き寄せる。
とくんとくんと小さな鼓動が僕の胸を揺らす。
きょとん、とした丸い瞳に映る僕の顔は、言わずもがな、もう、冷徹な人間を演じ切れていなかった。
「……おかえり、フェリセット」
ぼろりと涙が頬に零れるのを感じながら、ぎゅうと抱き締めたぬくもりは、僕の腕の中でうれしそうに身じろぎして――元気よく「にゃあ!」と鳴いた。
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