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係員に抱えられ、にゃあ、ともう一度鳴いた猫は、僕が選んだ服を着て、僕が選んだ首輪をしていた。
「フェリセット、先輩の飼い猫みたいですね」
隣で同じことを思ったのか、7つ年下の後輩がそんなことを言う。彼女はこの間まで高校生だった。そんな彼女がどうして僕の後輩となっているのかと言えば、高校を卒業してそのまま研究機関に就職できるくらいには頭脳明晰だったというだけだ。
被検体の世話というこの仕事を担当しているのは僕と後輩の2人だけだ。
これは憶測だが、こんな面倒な仕事は若者にでも任せておけ、とでも思われているのだろう。僕もまだ26になったばかりだし、後輩に至っては19歳。二人の仕事は大袈裟に言うなら宇宙開発の研究――実のところは猫の世話。我ながら笑えるこった。
「飼い猫と言うなら君のほうが可愛がっていただろう、被検体769のこと」
「その呼び方やめてくださいって何回言えば分かるんですか」
「はいはい、フェリセットだね」
そんな会話をしている間にも、フェリセットは移動用のカプセルに詰められて、着々とお別れの時が近づいている。悲しみを誤魔化す為に、後輩は無理に明るい声を出しているのだろう。
くだらないな、そう思った。
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