フェリセットの準備は完了しました

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「落ち着いたかい。ほら、これ、温かいコーヒー」  数時間後、そう言って差し出したコーヒーは「わたしブラック飲めません」と拒否された。人の行為――もとい、好意――をなんだと思ってんだ。  このまま僕が飲んでしまおうかと思ったが、そこは大人な僕だ、大人げないことはせずに大量のミルクと砂糖を追加して後輩にもう一度差し出した。ブラックじゃないなら、と受け取った後輩は一口甘ったるいカフェオレもどきを啜って、そうして、真っ赤になった目で僕を見た。 「先輩は、苦しくなることは無いんですか」 「どうして?」 「だって、」  そう言った後輩は一度言葉を切った。なんて言えばいいのか迷っているというよりは、どう言ったら自分の気持ちが伝わるか考えている様子だった。  続く言葉は予想がつく。だから僕は、後輩の言葉を待たずに返答を告げた。 「僕が駄々を捏ねたって、君がどれだけ憤慨したって、被検体769――フェリセットという猫が宇宙に向かって打ち上げられることは覆されないし、だったらそんなことで心を揺らしている暇なんて僕らにはないだろう?」
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