第3章

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達哉を労わる事も出来ずに 家を出たことが心苦しいが、 達哉を養ってる今、遅刻なんか出来ないから 後ろ髪を引かれる思いで仕事場に向かう 足を早めてギリギリで仕事場に到着した。 俺は着てきたパーカーを脱ぎ捨てて ワイシャツへと腕を通して 腰にエプロンを巻き付ける。 そう。俺はイタリア料理店に勤める 料理人なのだ。 初めは生半可な気持ちで働き始めたが、 俺の作る料理を笑顔で食べる 達哉が今は隣に居るから 始めて良かったなーなんて最近では思う。 「お。駿太。おはよう。」 「おはよー。仕込み終わった?」 「まだだから手伝ってくれよ。」 「りょーかい。」 こいつはここの店長であり、 俺や勝の同級生でもある透。 自分の店を持つのが学生の頃からの夢であり、この店が出来た途端に ずっと連んできた俺に声がかかってきた。 元々趣味程度で自分のご飯を 作れるぐらいは出来たから、 ノウハウさえ教え込まれれば 今は一人で厨房に立てるぐらいに 成長したってわけ。 「そういえばさ?お前勝に 会いに行ったんだろ?どうだった?」 「どうって何が?」 「話せたりしたのか?」 「あぁ。看護師さんに頼んで 呼び出してもらって謝ってこれたよ。」 「ふーん。それは良かったな。」 「なんだよ?透も謝るか?」 「それって今更感がないか? だから俺はいいや。」 「まぁ確かに一方的に謝っただけで 向こうは本当のとこどう思ってるか 分からないしなー。」 「まぁ…でもそれでもちゃんと 謝ってきたお前は偉いよ。」 「まぁそう思ってくれるだけでも 謝りに行った意味はあるかな。」 「だろ?まぁとりあえず今日も一日 頑張ってくれよな?」 そう言って肩に手をポンと置いて、 仕込みの準備の続きに取り掛かり始めた 透を目で追って、 俺も止まっていた 手を再び動かし始めた。 確かにな。一方的だよな。 俺らが勝にしてきたことって 謝って許される問題でもないよな…。 どうすれば勝が心から許してくれるんだろうか。 出来れば普通に酒を飲み交わすぐらいの 仲にでもなれればなー。 なんてそんな自分に都合のいいこと ばっかりを考えて今日も一日働き始める。
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