第1章

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カランカランと鐘が鳴って来客を知らせる。 「お。たっちゃんいらっしゃい!」 「どうした?達哉さん。 また一段と浮かない顔して。」 「こーら。珖ちゃん。 たっちゃんも大事なお客様だよ? ほら。ホットココア用意してあげて?」 「へいへい。」 「それで?たっちゃんなんかあった?」 珖ちゃんが言うように確かに 浮かない顔をして入ってきたたっちゃんに 心配になって声を掛ける。 「はぁー。またダメだった。」 「そんな分かりやすく溜息つかないの。 幸せ逃げちゃうよ?」 「だってよー。働きたいって 言ったらまたダメって言われたもん!」 いつもの定位置のカウンターの端に 腰を掛けてるたっちゃんは バシンと音を立ててテーブルを叩いた。 「はい。ホットココア。 それ3日にいっぺんのペースで言ってない? てゆーかそんなに働きたいの?」 絶妙なタイミングでたっちゃんお決まりの ホットココアを運んできて 呆れたように口に出す珖ちゃん。 「あっちぃ!…ふー…ふー… 別に働きたいってゆーか このままずっとしゅんの世話になったままだと 俺廃人になっちゃうよ。」 「それはないでしょ?なんで? 駿太くんに甘えちゃえばいいじゃん?」 「それともなに?そんなに外出たい?」 「んー。なんてゆーかな。 珖は悠二ちゃんのこと心配になって 閉じ込めたいとかねーの?」 猫舌のたっちゃんはずっとホットココアを ふーふーって冷ましながら コテンと首を傾げて珖ちゃんを見つめる。 「べつに?」 「えー!それって俺のこと信用 してくれてるってこと!?」 「いや。べつに。 ただ悠二さんは馬鹿がつくぐらい 真っ直ぐな人だし馬鹿だから 俺ぐらいしか相手してもらえないだろうな って思ってるだけ。」 「うわ!たっちゃん聞いた?ひどくない? 俺だって男だよ?ね? 珖ちゃんの見てないところで 誰かにコロッといくかもじゃんね?」 「へぇー。まぁそん時は とことんお仕置きしてあげますけど?」 冗談とも捉えないぐらい重低音の声が響き 黒い微笑みを俺に向けてきた。
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