ダイヤモンドマンレース

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 ――翌朝、4時。  オレは何とか目論見通りにロードの終点に辿り着いた。 「お疲れ様。とりあえずテントにスープを用意したから。それと、すぐにマッサージを」  待ち構えていたミユキの顔にも疲労の色が浮かんでいる。 「オレはともかく、お前らは交代で寝てろよ。サポートが潰れたらレースにならない」  コーンスープを一気に飲み干すと、オニオンの強い香りが鼻を抜けた。 「私は大丈夫。適当に寝るから」  気丈に笑うミユキの傍らで、メンバーの指圧師が寝転ぶオレの足のケアを始めた。 「15分でいい。それ以上は身体が冷える」  冷えた身体は動かなくなるから、疲労が残っていても出発しないといけない。 「……行ってくる」  山岳装備に着替え、テントを出る。  この時点で、マルコとのタイム差は1時間15分12秒と離されていた。驚異的なハイペース。 「見てろ。登山(クライム)でこの差を取り返してやる」  薄暗い中を、山頂目掛けて歩き出す。  視界が悪い。道も悪くなる。冷えた空気が容赦なく体温を奪っていく。高山病を防ぐため、深い呼吸を意識する。   「はぁ……はぁ……」  岩だらけの登山道に登山用杖(トレッキングポール)は欠かせない。足腰への負担を少しでも少なくしないと長時間を進むことはできないからだ。 「……っ!」  リュックのポケットからチョコレートを取り出して齧る。少量でカロリーを稼ぐには、これが一番。  少し先に、先行者の姿が。  ロード区間終了の時点でオレの順位は5位だったから、4位の選手か。だとすれば、15分のタイム差を縮めたことになる。  だが簡単に抜けられない。何しろ道が細くて2人分のスペースが無いのだから。  しかし。 「……先に行ってくれ」  追いつかれたことに気づいた先行者が道を譲った。息が荒い。何しろ昼夜を掛けての強行軍なのだ。かなり体力を消耗しているのだろう。 「お先に」  軽く礼をして、脇を抜ける。頂上まで、まだ数時間は掛かる。先は長い。お互い、焦りは禁物なのだ。  少しだけペースアップして距離を取り、それからペースを元に戻す。辺りを見渡すが、特に天候が悪くなる気配はない。 「これなら、夜中までに山頂に着けるな……」  第4区間のパラグライダーは夜間飛行が禁止されているから、逆に言えばそこで夜明かしをすればいい休憩になるのだ。  流石に2晩の徹夜は身体が持たない。上手く休養をとっていかないと。 「何としてもチャンピオンを獲るぞ……オレは金剛石(ダイヤモンド)になるんだ!」
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