ダイヤモンドマンレース

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 結局、山頂に辿り着いたのは夜中の2時だった。ロッジでの休憩だから寒さもしのげる。ここで4時間の睡眠を稼げたのは有り難い。 「リュウヤ選手、そろそろです。準備してください」  朝飯中にスタッフが呼びに来る。今日の前半はから、少し余分目に詰め込んでおかないと。 「50分差か……」  ウォーミングアップをしながら掲示された時間差を確認する。確かにトップのマルコとは時間を縮めたが、思ったほどじゃない。意外に粘りやがったな。 「だが、勝負はここからだ」  表に出て、スタッフに手伝ってもらいながらパラグライダーのハーネスを背中に取り付ける。  すでに先行した2位と3位の選手が、近くの空で旋回を続けていた。 「3……2……1……GO!」  合図を受けて急斜面を一気に駆け下りる。その速度を利用してパラグライダーに風を受けるのだ。そして、山肌を駆け上がる上昇気流を受けて舞い上がる。  同じ場所で何度も旋回するのは、それによって高度を稼ぎ、着地までの距離を伸ばすための工夫だ。  やがて十分な高度を稼いだら前進に切り替え、切り立った山肌に沿ってゆっくりと滑空していく。山肌沿いに舞う上昇気流を受けるためだ。  だがこれも口で言うほど簡単じゃあない。山から離れすぎると失速するし、近づき過ぎると墜落の恐れが出てくる。自然の恩恵は一定しないから、己の五感を総動員して細かいコントロールをしなければ。    遥か前方に悠々と飛ぶのはマルコだろう。  近くにはテレビ中継用のドローンも飛び回ってオレたちを撮影していた。キツい勝負だが、この大空に浮かんでいる瞬間は気分も晴れると言えるだろう。 「この距離なら、第5区間のマラソンで十分にブチ抜ける」  ここで離されず何とか食いついて行けば、そう思ったときだった。 「……っ!」  少し前を飛んでいた2選手が何か左手の方に向かって騒いでいる。 「何が……?」  目を凝らした先に、思わず声を失った。 「雨雲か……っ!」  黒い雲がこっちに向かって急速に接近している。 「まずい! 嵐に巻き込まれたら一巻の終わりだ!」  見ると先行2選手も事故を避けるため早々に高度を下げている。一方、先頭のマルコはすでに小さな点ほどにも遠ざかっていた。 「ちくしょお! ヤツが苦手の登山でペースアップしたのは、この雲行きを読んでいたからか!」  ひとたび着地してしまえばそこから先は自力で走って進むしかない。パラグライダーとは比較にもならない鈍足。ここでの差は決定的なものになるだろう。  だが、事故は死にもつながる。不安げなミユキの顔が頭をよぎる。 「くっそぉぉ!」  大声で叫ぶも、着地の道を選ぶ他なかった。
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