ダイヤモンドマンレース

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「……聞いてる? リュウヤ」 「ああ。聞こえている」  うっ血でジンジンと痛む脚をマッサージしてもらいながら、半ば上の空で答える。結局、第4区間ゴールまでの遠い道のりは豪雨の中を徒歩でしのぐしかなく。他の2選手ともどもほうほうの体でチームの元に辿り着いたときには、意識が飛びかけていた。 「同着した二人はここで棄権(リタイヤ)だって。だから今はリュウヤが単独2位。3位は悪天候でになって、こっちとは5時間の開きがあるわ」  ミユキがどうにかオレの気持ちを奮い立たせてくれようと気を遣ってくれるのは分かるのだが。 「一緒だよ、2位も3位も」  そう、金剛石(ダイヤモンド)の称号を得られるのはチャンピオンだけ。後の選手は例え完走したとしても鋼玉石(コランダム)と呼ばれて『十把一絡げ』だ。  雨雲から逃げ切ったマルコは、そのまま第4区間のほぼ全てをパラグライダーで乗り切るという快挙を達成したそうだ。  運営側も今年は新記録が出るのではと横で噂している。  今、オレの前に突きつけられた『タイム差』は実に10時間3分56秒。  レース後半、はもはや決定的と言っていい。マルコはもう何ひとつ無理をする必要がない。ゆったりと走りながら万が一にもオレが背後に迫ったときだけ、ペースアップすればいいのだ。  ……ああ、オレは何でこんな馬鹿な真似をしているんだろうな。  それもオレ一人だけの話じゃあない。ミユキも、サポートの仲間も、こんな遥か遠くの地まで来てくれているのだ。彼らの生活を犠牲にして。更にはそれらの活動を支えてくれるスポンサーや支援者の皆。それらに多大な無理を強いて、『この様』とはね。  オレが金剛石(ダイヤモンド)の称号を得ることに、そんな価値があるとでも言うのか? こんな下らないマゾヒストさを競うレースなんざもう……。  その時だった。 「あのぉ」  同行していたテレビクルーの若い男が話し掛けてきた。 「インタビュー、少しいいですか?」 「いいよ」  視線は明後日のまま。 「リュウヤ選手は何故、こんな過酷なレースに出たいと?」  まったくだ。オレは何で『こんなこと』を……。 「示したいんだよ、人はどんな夢だって叶えられるんだと」  ふと、自分の口が勝手に動いた。 「願うのなら、人は金剛石(ダイヤモンド)にだってなれるんだと」  ああそうだ、オレは金剛石(ダイヤモンド)になるんだ。では、この状況は。 「もしもリュウヤの闘志が金剛石(ダイヤ)のままなら、まだ戦える」  ミユキの声が、静かに燃えている。 「残りは310キロの1。手伝わせて、私にも」
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