ダイヤモンドマンレース

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 ラスト、第5区間は山村の点在する山間部310キロの走破だ。  昔から避暑地・観光地として金持ちたちの隠れ家だった周辺地域は、このレースの開催で一気に世界的な名所になったと言える。  沿道では村民が農作業の手を止めて声援を送ってくれるし、飯屋では普通に食事もできる。何なら宿屋も少なくないから一泊していくことも可能だろう。だからこそ、この区間はサポートなしでの一気なのだ。 「はぁ……はぁ……」  オーバーペースに息が乱れるが、体力温存とかそんな贅沢を言っていられる身分なんかじゃあない。何しろは、とにかく全力を尽くしてマルコを追うことのみなのだから。  走る。疲れる。ペースを落とす。歩く。脚を止める。そして、また走り出す。グスグズ考えるのはもう止めた。後悔とか、自虐とか、そんなツマラないことはゴールしてからゆっくり考えればいいことだ。  今はただ、10時間という途方もないギャップを埋めることだけがオレの仕事。  やがて陽が山陰に消えていくと、一気に身体が冷え始める。リュックからカッパを取り出して羽織ると、多少は暖かくなった気がした。  (フクロウ)が鳴く声だけが、静まり返った不気味な山道にこだまする。  頭につけたLEDの頼りない光が夜道を照らすが、その枠外は深い闇。この道で合っているという確証もないが、多分間違ってもいないだろう。こういう事態も考えて事前にコースレイアウトをネットで散々に確認してきたのだ。それを信じるしかない。 「く……そ……っ!」  朦朧とする意識。頬を叩いて気合を入れ直す。ふと、ミユキの顔が脳裏に浮かぶ。  ミユキと出会ったのは国内での鉄人レースだった。  男子選手に混じって互角以上のレース運びをする彼女は驚異的で、オレはその姿に確信をしたんだ。 「こいつとならオレの夢を共有できる」と。「同じ世界を生きられるに違いない」って。  だから、レース直後にオレから「結婚して欲しい」と申し込んだ。  はは……「誰、この人?!」って目を丸くしていたのを、とてもよく覚え……。  と、そのとき。 「うう!」  左手先の林に、ぼんやりと白い影が見えたのだ。そして、その姿は紛れもなく……。 「ミユキ……お前、何でこんなところにいるんだ!」  じっと立っているのは、紛れもなくミユキだった。 「ミユ……うわ!」  フラフラと近寄ろうとして足元が崩れた。いつの間にか靴先が崖に掛かっていたのだ。 「……幻……覚か」  見直した先には、漆黒の闇が広がっていた。
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