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やがて、夜が白々と明けていく。
あんなに不気味で恐ろしげだった山道が、ただの何事もない一本道へと変わっていく。まるで憤怒の形相が微笑みに変わったかのような。
「まだ……先を……」
意識はすでに飛びかけている。
あれからどれだけ進んだかも分からない。休んでいないことだけは確かだろう。或いは歩きながら寝ていたかも知れないが。
「はぁ……はぁ……」
下り坂は脚にブレーキをかけなくちゃいけないから、意外と辛い。もしも両足がタイヤなら、このまま転がっていけるのに。
「進む……差を……縮めるんだ……」
頭にあるのはそれだけだ。マルコが今何処にいるのか、そんなことは知ったこっちゃない。もしかしたらもうゴールしているのかも知れないが、そんなのは分かったところでオレに何かできる訳でもないし、逆に心が折れるだけだろうから。
とにかく、ひたすら前に進むしかない。休まず、ただひたすらに。
「おお! ニ番手の選手だぞ! 頑張れー!」
沿道の声援に手を振る余裕もない。店に寄って食事をする時間も惜しいし、寝るなんて選択肢は端からない。
今はただ……。
やがて、いつの間にか夜の闇がやって来た。最初の頃こそ気味が悪かったが、ここまで来ると逆に慣れた気さえしてくる。ペースも上がったんじゃないだろうか。
夜陰を照らす星の灯りを目で捉えられるようになってきた。こうなれば集中できる分だけ昼間よりマシかも知れない。
オレは……オレは……ただ、走り続けるのみ。そう、機械のようにだ。
そしてまたいつの間にか夜明けがやってくる。時間からして、これが『最終日』と見てよかろう。
マルコはどうしたんだろうか? もうゴールしてぐっすりと寝床に……。
「いや、違ったようだな」
大きな岩陰の横で脚を止める。そこに、見覚えのある男が寝転がっているのが目に入ったからだ。
「よぉ……久しぶりだな」
うたた寝から目覚め、驚愕の表情で見つめるマルコに、痩けた髭面でニヤリと笑ってみせる。
「馬鹿な……そんな馬鹿な!」
まるで幽霊にでも出会ったかのように蒼白な顔面。
「お、お前は15時間以上も後ろにいるばすじゃないのか!」
各選手の現在地は携帯しているGPS発信機のデータで把握が可能なのだ。だが、逆に言えば。
「さぁな……。途中で落としたからな、GPSは。『誰か』が拾って、持っているのかも知れんけどよ」
ああ、オレのダミーで走っているミユキには感謝しないとな。陽動作戦は、成功したよ。
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