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奈緒からのダメ出しは最もなものだった。弾き語りを披露したことが初めてだったし、バンドの曲しかやってこなかった俺は弾き語りのスコアを練習したことがほとんどなかった。
「途中で入るエレキギターみたいなフレーズはなんなの? 音が物足りない。弾き語りっていうかバンドでやった方がいいんじゃない? AメロからBメロに変わるところが不自然っていうか変。違う曲を無理やりくっつけたみたい。サビ? サビなのかな? メロディがぱっとしないし、ギターと音ズレてない? あと、曲全体が単調な繰り返しになってる」
ひとしきり批判したあとに、
「まぁでも、いいんじゃない」
と、フォローされたが多分どこも褒めるところがなかったんだろう。彼女なりに優しい言葉をかけようと思ったが、何一つ見つからなかったから「いいんじゃない」としか言えなかったのだ。それは暗に何一つもいいところがないという彼女の感想をむき出しにしてしまった。
まだ一曲歌っただけだ。でも俺は自信を失ってしまった。この一曲目が一番うまくできたと思っていた。これがダメなら他はもっとダメなのはわかっている。
作った曲を聞いてほしいと言ったのは俺で、素直な感想が聞きたいと言っていたのも俺で、彼女はちゃんとバンドマンとして、音楽をかじった者として答えてくれた。
なぜ納得が行かないのだろう。
彼女の評価は厳しすぎるんじゃないか? 初めて作った曲だぞ? これから頑張って次も曲を作ろうと思っているときに、その気持ちを削ぐようなことを言わなくてもいいんじゃないかと、お門違いな思いが心に浮かぶ。
褒められたかった。やさしい言葉を掛けて応援してほしかった。ここまで落ち込んで、自分の本心が顔を出す。
「ありがとう、今日は・・・これでいいや」
奈緒は最初無言でうなずいた。それから俺がそれ以上喋らないのを見て、
「まだ曲あるんでしょ。今日は、やめとく?」
「あぁ・・・うん。もうちょっと、ねってみる」
精一杯、自分の殻を守った。これ以上傷つきたくない。
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