スタジオ

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 そこから奈緒は、「他の曲も聞くよ?」とか、きっと雰囲気が悪くならないようにするために言葉を掛けてくれたが、俺はそそくさとギターを片付けた。  自分なりに何日も悩んで悩んで、これが雑誌のインタビューでいわれてる産みの苦しみというやつかと思いながら、形にならない創作という作業をひたすら続けた。その結果は見るも無惨な自己満足でしかなかった。気持ちを込めたはずのメロディーラインは、音がズレたサビものでしかなかった。  入り口の防音扉に手を掛ける。硬くロックされているので両手で開ける必要がある。 「待って」 奈緒に声を掛けられ、目も合わせずに帰ろうとしていた俺は動きを止めた。 「ねぇ、これで終わりなの?」 「そうだよ」 と答えながら、その質問の意図を測りかねて奈緒の方を見た。まっすぐにこちらを見ている。 「ふたりきりで、呼んでおいて・・・? メシ行かない?」 「あぁ」と気の抜けた返事をしたが、二人ということを強調するのはもしかして男女としてということを言っているのかもしれない。それでも今日はこの沈んだ気持ちをどうしようもなかった。処女作を叩き落された側としては、身勝手なのはわかっているが怒りすら感じていた。 「ごめん、今日は帰る」 「待ってよ。私の気持ちはどうなるんだよ! 期待したじゃん! ラブソングでも歌えよ!」 奈緒らしくないというか、目が湿って泣きそうになっている。俺が落ち込んで大して話を聞いていない間も彼女なりにフォローの言葉を掛けてくれていた。 「なんで自分のことばっかりなんだよ、こっちが気を使ってるのに。少しは私のことも考えろよ」 強い口調から段々とトーンが落ちてくる。そういえば奈緒は飲み会で急に泣き出したことがあった。いろいろ溜め込む不器用なタイプ。今日だって「中辛で」って俺が言ったから精一杯の知識でスパイスを振るってくれたのかもしれない。
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