スタジオ

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「新曲の練習した?」 「まだ。曲は聞いたけど、練習してないや」 「なにやってんだよ」 奈緒は相変わらず男みたいな喋り方だな。確か弟がいるって言ってたけど、その影響かな。  サークルメンバーの話、最近のバンドの状況、大学の課題、バイト。他愛ない話は尽きはしない。  同じサークルに所属する奈緒と駅前で待ち合わせをして都内の貸し音楽スタジオまで歩いてきた。  受付を済ませて防音性の重たい扉を開けて部屋の中へ入る。なんだか手に嫌な汗をかいている。  二人きり。  いままでも二人きりになったことはあった。バンドの練習終わりに他のメンバーがバイトに行って、残った二人でファミレスでご飯を食べたりした。今、俺が緊張しているのは二人でいるせいじゃない。  硬い取手を回してドアをロックすると、すっと外の音が遮断される。 「なんか変な感じ」 先程から俺もそう思っていたが先に口にしたのは奈緒の方だった。駅で待ち合わせしてスタジオに歩いてくる。いつも通りの道で、いつも通りの話をしてここまでやってきた。でも今日は練習とは違う。曲を作ったから聞いてほしいと、俺からLINEでお願いして来てもらった。 奈緒:練習の時じゃだめなん? 曲を聞いてほしいというメッセージへの奈緒の返信は当然だった。俺もそういう方法を考えはしたが、まだ初めて作った曲だし、メンバー3人に聞かせるには自信が足りなかった。奈緒の他に、戸浪と重岡さんの二人がいるが、重岡さんはドラムのメンバーが足りなくてサポートメンバーのような位置づけで参加してもらっている先輩だし、戸浪は正直変わり者でサークルの中で他にバンドを組む人がいなかったからメンバーに入れてやったようなヤツだ。 映太:練習の時だと、ちゃんと聞いてくれないでしょ? 戸浪とか話聞かないし 奈緒はそんな説明に納得したかはわからないが、 奈緒:ふーん、いいよ、聞いてあげる と、了承してくれた。 俺と奈緒は男女の関係ではない。そうなってもいいと思っているけれど、奈緒がどう思っているのか聞いたことがない。彼氏がいないというのは知っていても、それ以上の恋愛話をしたことはない。俺たちには同じ軽音サークルのバンドメンバーという以上のつながりはないのだ。
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