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「アイコちゃん、退院、本当におめでとう。今まで、たくさん辛い治療頑張ったね。これからも、大変かもしれないけど、アイコちゃんならきっと大丈夫だよ。元気でね」
私は手を振ろうとしたが、アイコちゃんの声がそれを遮った。
「バイバイじゃないよ」
「え?」
「私ね、夢ができたの。これから、たくさん勉強して水野さんや大坂さんみたいな看護師さんになりたいの。だから、バイバイじゃないよ。『またね』だよ」
アイコちゃんの揺るぎない瞳が、「看護師になるんだ」という意志を物語っていた。胸のあたりが、じんわりと暖かくなるのを私は感じていた。
「そっか。アイコちゃんなら、きっと素敵な看護師さんになれるよ。その夢、応援してるね。またね」
「水野さん、大坂さん、またね! ありがとう!」
アイコちゃんとお母さんが手を振り、病院を出て行く姿を私は目に焼きつけていた。じんわりと目頭が熱くなる。涙を拭おうとしたそのとき、背中に衝撃が走った。大坂さんが私の背中を叩いたのだ。突然の出来事に涙が引っ込む。
「さあ、水野さん、戻ろうか。今日も一日頑張ろう」
大坂さんは溌溂とした声で言った。眼鏡の奥の瞳がきらりと輝やく。その表情はとても生き生きしていた。
「はい!」
ナースステーションに戻る大坂さんの背中を、私は追いかける。朝の光に満たされた廊下は、いつもより明るく見えたのだった。
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