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今日、私はアイコちゃんとお別れする。6か月の間、ずっと一緒だった。このお別れは、アイコちゃんにとって幸せなものだけど、私は少しだけ寂しかった。私は大きくため息を吐く。
「ちょっと水野さん、なんて顔してるの? そんなんじゃ、アイコちゃんに心配されるわよ」
顔を上げると、大坂さんが立っていた。きっちりとお団子に結わえられた髪 、曇り一つない銀縁の眼鏡。大坂さんはいつ見ても、泰然自若とした佇まいである。私はそんな大坂さんに泣きついた。
「だって、アイコちゃんすごく良い子だったじゃないですか。私、いつも癒されたのに~これからどうしていけばいいんだろう」
「そうね。良い子だったわよね。でも、仕方ないわよ。この場所にいる限りはお別れはつきものよ……」
大坂さんの声は穏やかで、凪いだ表情を浮かべていた。もしかしたら、大坂さんもアイコちゃんとのお別れが寂しいのかもしれない。
「あっ! 水野さん、ごめん! 私、まだやらなければならないことが残っていたわ。悪いけど、先にアイコちゃんのところに行ってもらえる?」
「分かりました」
こうして、私はアイコちゃんの元へ向かうことになった。アイコちゃんと過ごす最後の時間。私は心の中で十分に別れを惜しもうと思った。
「アイコちゃん」
「はーい」
「準備はできた?」
「うーんと、まだだよ。水野さん、棚の上の物取ってくれる?」
「オッケー、了解」
私はアイコちゃんに言われた通り、棚の上に置かれていた本やノートを手に取った。
「今日でバイバイだね、水野さん」
「そうだね。でも、本当に良かった」
「うん。それに今日、水野さんがいてよかった。ちゃんとお別れしたかったから」
アイコちゃんは眩しい笑顔で言った。桃色の頬は彼女が健康であることを教えてくれる。血色の良い唇も、艶やかな髪も、道端ですれ違う少女たちと何ら変わらない。私はそのことが、心底嬉しかった。
その後、大坂さん、アイコちゃんのお母さんが部屋にやって来た。いよいよ、お別れのときだ。
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