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逝ってしまった人
休みの日、牧野先生との釣行は実現しなかった。
牧野先生が、急逝した。
釣行の前日だった。退勤する時に、
「明日は、楽しみじゃなあ」
と笑顔で声をかけてくれた牧野先生だったのに。奥様の話によると、突然のくも膜下出血で、あっという間に亡くなったそうだ。
激しい頭痛で薄れ行く意識の中で、最後の言葉が、
「これはもういかんなあ」
だったと聞いた。
葬儀は、クラスの生徒全員が参列した。出棺時、喪主である奥様の言葉で、
「主人は、釣りをこよなく愛した人でした。戒名に『渓』の字をいただきました……」
と言う件を聞いたとき、泣いていないのに涙が溢れた。私は、今まで多くの葬儀に参列したが、これほどまでに感情が高ぶるなんて。
その後の授業でクラスの生徒が、
「赤葉先生、葬式で泣いとったなあ」
としみじみ声を掛けてきた。私は、ただ
「うん」
とだけ答えた。やんちゃな生徒たちだが、彼らなりに、私を慰めてくれている。それが余計に切なく、授業中また泣いてしまった。
私にとって、牧野先生は、仕事の先輩であり、遊びの師匠であり、どんな時も寄り添ってくれる友人であった。そして、中学生の時に父親を亡くした私にとって牧野先生は、父のような存在でもあった……と勝手に思っていた。
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