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001
微かに動く唇。
それに呼応するかのように、ほんの少しずつ体が動き出す。
あれからどれだけ経ったのか、もうそれすら思い出せない。
風が顔をかすめた。
たった今まで感じることが出来なかった世界。
ああ、こんな物ですら今は愛おしく感じる。
全身に力をこめると、体を覆う石たちが崩れ落ちた。
「長かった……」
時間の感覚はなくとも、それだけは分かる。
私は自分の後ろにある朽ち果てた玉座を見た。
勢を極め、仲間で溢れた風景はもうなかった。
ただ埃と砂にまみれ、至る所が崩れ落ちた廃墟でしかない。
あの日、私たちは全てを滅ぼされた。
仲間、愛した人、街の者たちすらも。
何をしたというのだろう。
私たちはただ自国の法の元、生きてきただけ。
それなのにあの男は――
「完全に私を滅ぼせなかったこと、絶対に後悔させてやるわ」
そう。
例えあの男がもう生きていなかったとしても、邪魔する人間など全て滅ぼしてしまえばいい。
私たちは今までそうやって生きてきたのだから。
薄汚れた鏡に微笑むと、私は翼を広げ大きく飛び立った。
再び始じまる殺戮の宴に、ただ心を躍らせて。
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