一人目

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「よくも……よくも、裏切ったわね」 「ま、待ってくれ、誤解なんだ。僕が愛してるのは、君だけだ」 「今更 言い訳なんて聞きたくないわ」  大きな瞳いっぱいに涙を浮かべた花澄の手には、一丁のナイフが ぎゅっと握りしめられていた。その鋭く光る刃先を向けられた康治は、思わず後ずさりながらも懸命に声を絞り出す。 「お、落ち着けよ。そんなもの持って、危ないじゃないか」 「ねえ、愛してるのが本当なら、私と一緒に……死んでくれるわよね」 「な、何言って……うわっ!」  ナイフを手に襲い掛かる花澄と咄嗟に抵抗する康治。  二人が揉み合う中、突然ズブッと鈍い音が響いた。 「うっ……!」  花澄の低い呻き声。  鮮血が飛び散り、舞台は みるみる真っ赤に染まっていく――
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