一人目

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 たちまち騒然と化した舞台裏で、いち早く救急車を呼んだのは監督の統一郎だった。 「康治と真里絵は花澄の傍に。雄太と杏子は観客を出口へ誘導するんだ。極力騒ぎを悟られないようにな」  あくまで冷静に指示を出す。  辺りにサイレンを響かせながら、やがて救急車が到着した。  花澄が担架に乗せられ、すぐさま運び込まれていく。  しかし既に仮死状態にまで陥っていた彼女は、救急隊員による懸命な措置も甲斐なく、搬送先の病院で程なく息を引き取ったという―― 「どうしてなんだ! 昨日のゲネプロの時には、ナイフは ちゃんと……」  本来使われる筈だった本物そっくりのそれは、燃えないゴミ入れの底から新聞紙にくるまれた状態で発見された。  つまり、誰かが本物のナイフに すり替えたということになる。しかも、状況的にみて外部の犯行であるとは考えにくかった。
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