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◆ぼくの仕合わせな結婚
ぼくは夢衣子の純白のドレスを見ることができることを、心の底から感謝した。
黒服のお義父さんと腕を組み、黒いドレスやフォーマルスーツで着飾った友人たちに祝福されながら、真っ白なウェディングドレス姿でバージンロードを歩く夢衣子を見て、涙があふれてしまいそうになる。
新郎がこんな早い段階で泣くなんて揶揄われるぞと思い我慢したが、それでも込み上げるものが抑えられない。
式は進み、牧師がぼくに尋ねる。
「病めるときも健やかなるときも、愛を持って互いに支えあうことを、誓いますか?」
「――はい、誓います」
互いに誓い合ったあと、ぼくの前でどうぞ白いレースをあげてください、といったふうにやわらかく頭を垂れる夢衣子に、ぼくは愛おしさで胸が張り裂けそうになった。短い接吻を交わす。目を開けても、祝福と愛をめいっぱいに浴びた美しい白の晴れ着姿は、変わりやしない。
ぼくはこの瞬間のために、夢衣子に出会うために生まれてきた。そう思った。そして、ぼくはあの日夢衣子と出会ってから幾度となく思ったことを、また繰り返す。
他人の服が黒く染まるという超常現象が起きた理由――それは今目の前の彼女に出会うためだ。彼女を愛し、守るため。ぼくは夢衣子を、運命を信じた。
黒服にまみれた結婚式でも、ぼくらは世界からの祝福を感じることができた。幸せそうな夢衣子の笑顔を見て、ぼくの胸が温まった。
幸せだった。夢衣子と恋人になってから、世界の人間が黒服を着ていることが気にならなくなっていた。夢衣子が最愛にして唯一の人であり、夢衣子と過ごす時間が何よりの幸福の時間であった。
そして夢衣子がもたらしてくれるこの気持ちが、ぼくの一番大切にしたい気持ちだった。
好きすぎて、愛しすぎて、彼女を失ってしまったらどうしようと恐怖を覚えることさえあった。だけどそうしたときぼくは決まって、世界を見渡した。
相変わらず喪に服した黒く暗い世界を感じて、却って安心感を覚えた。それはもちろん、彼女とぼくの運命を感じることができるから。
夢衣子という運命の相手がぼくの前から消えてしまうことは、世界が黒服の人で満ちている限り無いだろう。ぼくはそんなふうに考えるようになっていた。まるでこの大地の上に立つたった二人の人間――アダムとイヴにでもなった気分だった。
ぼくは、ぼくらだけに色が付いていることに優越感すら覚えるようになっていた。彼らが自分の服の色をきちんと認識していないことを憐れみさえした。
そしてそれは、夢衣子だって同じはずだった。
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