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薄明かりの中、ぼくはベッドの上で夢衣子に手を伸ばした。するりと、光沢を放つ肌触りのいいパジャマの中へ手を忍ばせる。
「ヒロくん……」
ぼくは甘い夢衣子の呼びかけにキスで応えた。ふふっと夢衣子が笑う。
夢衣子の方から寄り添ってきて、ぼくの首に手をまわしてきた。やわらかで温かい息遣いが、ぼくの鎖骨に触れる。
ぼくらは互いをやさしく扱うように、ちょっとした愛撫と会話を始めた。前戯だ。
だけど今日はいつもと違う方向の、すこし深い話になった。
「ヒロくん、わたし……自分の子どもにはみんなと同じ、普通の世界を見てほしいって思うよ」
「うん、ぼくもだ」
「本当にそう思ってる?」
「……もちろんだよ」
「じゃあ……」
「でもぼくらに何ができるっていうの? ぼくには他人の服の色を変える力も、他人の認識を変える力もない。そうなったら、そんなぼくができることといったら、夢衣子。君のことをたくさん愛して、幸せを感じて、君にもそれを与えることだと思うんだ」
そう言ってぼくは夢衣子に撫でるように触れた。夢衣子はくすぐったそうにする。
「ぼくらが幸せであることは、これから生まれてくるだろう子どもにとっても幸せなことだよ。……夢衣子は違う?」
「ううん。同じ……ヒロくんと同じ気持ちだよ」
「じゃあ……何か不安なの? 何か思うことがあれば、ぼくが聞くから話して……」
そう言っておきながら、ぼくは夢衣子の下着を剥いで、濡れた体に指を入れて掻き回した。震えた夢衣子を、抱き寄せる。
「わたしじゃない。ヒロくんが……不安なんだよ」
これがぼくが聞いた、ぼくの知る夢衣子の最後の言葉だった。
次の日、目を覚ましたぼくが見たもの。それは夢衣子の死体だった。
いや、本当は死んでなんかいない。でもぼくは思ったのだ。布団の中の黒い下着姿の夢衣子を見て、彼女が死んでしまったと――。
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