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羽田から西方向へ飛行機に乗ること一時間弱。K県の空港に到着し、そこからさらに電車とバスに乗り換え、午前九時には目的の場所――赤達磨教の本部に到着した。
最寄りのバス停を降り広く舗装された山道を歩いていると、突如山間から赤い建物が現れた。間違いない、ここが赤達磨教だろう。
開かれた石造りの門前まで進むと、その建物の異質さがよく分かった。
漆塗りだろうか。赤壁に赤瓦を使った真っ赤な伝統日本家屋と言った具合だが、それでも御殿と言っても差し支えない立派な大きさと雰囲気とが、周囲のおだやかな田舎の空気とは一線を画している。
また、この書院造的な建物に併設される形で近代的な外観の、会館のようなものまである。こちらも屋敷ほどではないが、赤を基調とした建築物となっていた。
ぼくはごくり、と息を飲んでから広大な敷地に足を踏み入れた。
まだ無名の、出来たばかりの宗教であるはずだが、赤達磨教はこんな観光地になりそうなほどの建物を建てられるほど金が集まっているのだろうか。それとも、救いを求める多くの白服の人間たちが集まり多大な寄付をしているのだろうか。
腑に落ちない疑問と、そしてどんな人間が待っているのかという緊張を覚えながら、ぼくはカメラの付いたインターホンを押した。
すぐに「はい」と男が応対する声がした。
「東京から来ました生駒です」
「只今向かいます」
そう返事があって、すぐに二人の男がドアから姿を現した。ぼくは反射のように「やばい」と思った。
ぼくを出迎えたのは、目を引く赤装束に身を包んだ人間たちだった。
赤い忍者とでも称すればいいのか、真っ赤に染め抜かれた装束衣装に上下とも身を包み、ふくらはぎまで長さのある赤い足袋を履き、口元まで隠れる赤い頭巾をかぶっていた。目元しか明らかになっていないが、体型と言葉遣いから共に中高年の男性と判る。
「ようこそ。私は斉藤です。こちらは猪狩。今日から数日間、生駒さんの赤達磨教への入信手続きやご案内をさせていただきます。何かあれば、なんなりとお尋ねください」
「お世話になります」
そう言いながらも、ぼくは二人の衣装に思考を取られたままでいた。
目が覚めるような、赤。
つまりはこの斉藤さんも猪狩さんも、白服の人間ということだろう。せっかく黒服以外の人間と二人も出会えたというのに、こんな異様な服に身を包んでいて、つまりはこの赤達磨教とやらにどっぷりハマっているやばい人たちなのかもしれないと思った。
ぼくは少なからずショックを覚えたが、だがこんなものは事前に分かっていたはずだと頭を振った。ぼくの目的は夢衣子を白服に戻す手掛かりを知ること、ただそれだけだ。別に仲間を作りに来たわけじゃない。
ぼくはいよいよ、赤達磨教の総本山に足を踏み入れた。
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