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建物の中は外観と違って真っ赤ではなく、白い塗り壁に木目の入った茶の床――ごく普通の色で仕上がっていて安心した。ただ、外観から想像できる通りの広い廊下幅で、しかもピカピカに掃除が行き届いており、恐怖とは別の緊張感が湧き上がる。
視線だけで周囲を観察していると、斉藤さんが口を開いた。
「今から生駒さんには赤福様と謁見をしていただきます」
「はあ」
「赤福様は信者との交流を大切にされておりますが、それでも彼らが赤福様とこれほど間近にお目にかかれるのは大きな集会が開かれるときだけです。とても有難いことと認識してください」
そのまま斉藤さんは、淡々と驚くべきことを言い放つ。
「生駒さん、あなたは本日からこの赤達磨教の幹部です。幹部は私とこちらの猪狩、それから生駒さんの三名のみです。この三人で、赤福様の教えを広く伝える役目を担います」
「えっ? そ、そんな……私は今日来たばかりの人間ですよ? そんな新人がいきなり幹部だなんて……」
斉藤さんは立ち止まって振り返ると、ぼくをつまさきからつむじの先までまじまじと見つめた。
「あなたはマーセスの邪力に侵されていない方とお見受けします。それはとても珍しいことです。赤福様もお喜びになることでしょう」
斉藤さんはぼくが黒服でないことを言っているらしい。つまり、赤達磨教は別に白服側の人間だけで構成されているわけではないみたいだ。少しガッカリする。
「確かに私は入信を希望するとは言いましたが……まだ赤達磨教について知らないことばかりです。あの、信者の人ってどれくらいいるんですか? 赤福様って何した人ですか? どんな教えを持っているんですか?」
まだ情報収集もままならないのに幹部にされては敵わないと、ぼくは矢継ぎ早に質問をした。そもそも教えも知らずに入信とはおかしな話である。
斉藤さんは苦悩の末にぼくがここに辿り着いたことを白服の立場として察せられるのか、嫌がる様子もなく淡々と答えてくれた。
「信者はまだ数千人と小規模ですが、ここ数年で著しい伸びを記録しておりますので、一万人に達するのも時間の問題かと。赤福様は代々宗教家の家のお生まれで、数年前に開眼し御力に目覚めたことで、お父様とは別にこの赤達磨教を新たに開宗されました。
様々な有難い教えを集会の際に説いておられますが、一貫しておられますのは慧眼を持つ者になりなさいということです。ただ目に見えるままを見るのではなく、本質を見る力を養いなさいと言うことですね。マーセスはあらゆる人間を黒装束に変える恐ろしい邪の力を持っていますが、それに罹ったものはこの慧眼の力を失っています。私たちはその者たちを救うことを目的としています」
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