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宗教一家。なるほど、ネットには載っていなかったが、赤福様こと赤間福二にはもともと、教祖としてのノウハウが一応には備わっていたようだ。
赤達磨教が赤間家本筋の宗教の派生版なのか一部門なのかは分からないが、とにかくそうでなければ、こんな「マーセスの邪力」とか言っている団体に法人認定なんてとてもじゃないけど降りそうにないなと思った。本筋の方で儲かっているなら、この御殿にも納得がいく。
「それで……救われた人はいるんですか?」
「もちろんいますよ。自身が見ているものを疑いここに入信した者は、赤福様の元で見る力を鍛えています。言ってしまえば、赤達磨教に入ったことが救いなのです。慧眼の力は養い続けるものですから、きっと終わりはないでしょう。ですが、慧眼を養おうとする心を持つことが、この気づきこそがその者の救いとなるのです。生駒さん、あなたもですよ」
斉藤さんはここで目元を柔らかくした。きっと笑顔を向けてくれたのだろうが、生憎忍者のような頭巾のせいで不確かだった。
そしてぼくは二度目の、今度は大きなガッカリ感を覚えていた。
信者が一万人に達する勢いというのには驚いたが、それでも白服の人間はここにいる斉藤さんと猪狩さん――そして赤間の三人ほどしかいなさそうなこと、そして“世界が喪に服す現象を解決する”という救われ方をした人がいるわけではないということだ。
教えについても、慧眼なんたらの下りはそれっぽくもあったが、赤間による後付け感が半端ない。
ぼくはもう一つの大きな疑問「そもそもマーセスってなんですか?」と聞きたかったが、ここで質問タイムは終わりになった。猪狩さんが静止の合図を取り、斉藤さんがピタリと止まったのだ。
ぼくは顔を上げて息を飲んだ。いつの間にか目の前には、引き手と縁だけが金色に塗られた真っ赤な襖がある。
「この先に赤福様がいらっしゃいます。とてもお優しい人ですが、あまり失礼な態度は取りませんように」
赤い襖が閉てられているのは屋敷の奥側中央に位置する、廊下と庭に囲まれた間であった。ここに、赤間福二がいるらしい。
斉藤さんはぼくの返事を待たず、「赤福様、入ります」と通る声で言った。ややあって「はい、どうぞ」と声がして、今まで一言も発していない眼鏡の猪狩さんがサッと片膝をつき、襖を開ける。
ぼくはここへ来て、初めてゾッとした。
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